G02-06

 気持ちを伝え終えた山下愛(やましためぐ)は強かった。真向いから高く上げた両手を振り下ろして襲いかかる『カイラギ』の目の前で屈みこんでそれをかわす。同時に左脚を軸にして右足を水平に回転させて相手の足元をなぎ払う。右によろめく『カイラギ』の首元にバットを振るような形で日本刀を振りきった。切り落とされた『カイラギ』の首が宙を舞う。


 後ろから忍び寄る別の『カイラギ』が彼女のBMD-G08を羽交い絞めにする。日本刀をすて後ろ手に『カイラギ』の頭をつかんだ。両脚でアスファルトを強く蹴ってジャンプして前方から襲いかかる『カイラギ』の胸を蹴り倒し、さらにその反動を使って一回転して後ろにまわって左手で抑え込んた。右手で短刀を逆手に引き抜いて『カイラギ』の後頭部に突き刺した。2体の『カイラギ』を一瞬にして倒した。


「どお。私だってやるときはやるんだから」


彼女のBMD-G08が振り向いて、残りの2体と戦っている本庄卓也(ほんじょうたくや)のBMD-G05に向かって叫んだ時だった。短刀を突き刺した『カイラギ』の腹から銀色の刃(やいば)が飛び出し、BMD-G08の胸をつらぬいた。


 蹴り倒した『カイラギ』がBMD-G08の日本刀を拾って仲間の『カイラギ』ごと串刺しにしたのだった。日本刀の刃先はBMD-G08のコックピットを抜け、山下愛のわき腹半分を切り裂いて、むき出しになっている背中の呼吸器から飛び出す。


ゴボ。


コックピットの中で山下愛は血の塊を吹き出した。わき腹を激しい痛みが襲う。


ゴボ、ゴボ。


山下愛の口から立て続けに鮮血が吐き出される。


「うそ、私、やられちゃったの」


「うそだよね」


「死にたくない」


「いゃだーよ」


「死にたくない」


「死にたく・・」


「死に・・・・、たく・・・・、ない」


彼女の泣き叫ぶ声が次第に弱まっていく。


 本庄卓也(ほんじょうたくや)のBMD-G05は2体の『カイラギ』を相手に苦戦していた。全身を鉤爪(かぎづめ)で切り刻まれながらもようやく2体の『カイラギ』を倒した時だった。彼のベッドセットから山下愛の悲痛な叫び声が響きわたった。


「メグ。今いく」


本庄卓也は声をはりあげた。BMD-G05は全身から血を流して脚を引きずりながら、BMD-G08のもとに向かった。彼の乗るBMD-G05が駆けつけた時には、BMD-G08はまるで赤ん坊のように丸くなって『カイラギ』のなすがままに鉤爪(かぎづめ)で切り刻まれていた。コックピットを覆っていた胸部の外殻ははぎ取られ、むき出しになった筋肉の間から血まみれになった山下愛の上半身がのぞいていた。


「うぁー」


 本庄卓也のBMD-G05は怒り狂って最後の『カイラギ』の後ろからつかみかかった。『カイラギ』の背中の呼吸器の片方に手をかけると力任せにはぎ取った。『カイラギ』が『サースティーウイルス』を放出し、ヘッドセットの中に警報音が鳴り響いた。本庄卓也にとって、そんなことはもうどうでもよいことだった。


「ゆるさん」


BMD-G05は『カイラギ』に馬乗りになった。暴れる『カイラギ』の両腕の鉤爪(かぎづめ)がBMD-G05の太ももの肉を引きちぎっていく。BMD-G05はそれにかまわず、『カイラギ』の頭部に向かって拳(こぶし)を交互に打ち付つけた。『カイラギ』の顔が潰れて、頭部が砕け、やがて呼吸が途絶えた。それでもBMD-G05は拳をふるうのを止めなかった。


「本部よりG05、G08。応答願います」


オペレーターの声で本庄卓也はわれにかえった。


コックピットを覆う外殻を内側から蹴り、こじ開けて抜け出す。背中につながる『神経接続子』を引きちぎって、BMD-G08の中の山下愛のもとに向かった。彼女をコックピットの中から引き上げて抱きとめると、もう一歩も動く力は残っていなかった。


「メグ。よくやったね」


本庄卓也は山下愛を抱きかかえたまま膝まづく。彼女の顔についた血のりを指でやさしくふき取って、髪を整えてあげた。もう、声を発する力さえ残っていない。本庄卓也は唇を山下愛の唇にそっと重ねて息絶えた。

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