T07-02

 本部のオペレーターとパイロットとの接触は軍規よって禁止となっていた。パイロットが13歳~15歳の少年少女であることから情が移ってしまい、オペレーターとしての冷静な判断を鈍らせることが多いからだった。それゆえにミッションリストにはBMDの機体番号とパイロット名しか記されていなかった。かつてはパイロット名の記載すらなかった。『カイラギ』との戦闘が激化する中、損傷する機体が続出し、負傷したパイロットを精神面で支える手段として名前が記されるようになった。ミッション中は原則として機体番号で呼ぶことが義務づけられていた。


 陣野真由(じんのまゆ)はにこやかな笑みをくずさず、園部志穂(そのべしほ)にそのことを責めた。


「あなた、戦闘中にパイロットの名を口にしたわね」


「すみません。教授」


振り向いたままの園部志穂は緊張の色をかくせない。陣野真由は彼女の肩越しにモニターをのぞき込み、腕を伸ばして彼女のインカムの電源を切った。


「今の戦闘内容を報告してみて。園部志穂さん」


彼女は自分の名前を呼ばれてさらに緊張を高めた。


「はい。後方より接近する『カイラギ』1体をアンカーにて撃破。そのアンカーを使って前方の『カイラギ』1体を足止めしてから短刀にて刺殺。後方に回った最後の『カイラギ』1体をアンカーをブーストにて射出し頭部を破壊。以上です」


「ドローンによる状況ビデオなしでよくそこまでわかるわね」


「パイロットからの筋電信号のモニターで大体のBMDの動きは把握できます。熱源検知モニターで『カイラギ』の位置もわかりますので。ただ、あんな戦い方はBMDの戦闘マニュアルには記載されていませんし、標準装備のアンカーにしては殺傷能力が高すぎです。それとT07は一度も振り向かずに後方の『カイラギ』2体を倒しています。そんなことが可能なのでしょうか」


「あなたの感じた通りよ。通常のBMDでは不可能な戦闘ね。久我透哉(くがとうや)のBMD-T07は特別なの。そして彼自身も」


「特別と言いますと」


「BMD-T07には36個の目があり死角と呼べる場所はないわ。360度、全てを同時に知覚できる。そして、アンカーを発展させて、間合いをとった敵をせん滅するために殺傷力を高めた『クナイ』と言う新型兵器を搭載しているわ」


「人間の脳が360度の視覚情報を同時に処理できるとは思えませんが」


「それができるのよ。久我透哉なら。彼は生まれつき目が見えない。彼の脳の視覚野は耳から聞こえる音を映像としてとらえているの。BMD-T07の視覚情報をそこにつなげたのよ」


園部志穂は障がい者までもパイロットに仕立てあげる陣野教授に底知れぬ恐ろしさをおぼえた。しかし、現状の『カイラギ』との戦闘は劣勢を強いられており、彼の様な存在が必要なことも大人として理解できた。


「園部さん。私はあなたをかっているわ。こんど、軍は特殊部隊を編制することになったの。あなたにも参加してもらうわ」


陣野真由は園部志穂の肩をポンとたたいてオペレーションルームを出ていった。


ちょうどその時、BMD-T07より要請が入る。


「T07より本部へ。回収ポイントへの経路確認をお願いします」


園部志穂はあわててインカムの電源を戻した。


「了解。経路上に障がい物はありません」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る