ケーキはどこへ消えた??
鈴木KAZ
1.
「ちょっと! 姉ちゃん!!!!
オレのケーキ食ったろ!!?」
階段の上に向かって怒りをぶつけるのは健太(ケンタ)だ。
「何? ケーキ??
知らないわよ そんなの!
どこに置いてあったのよ!」
上階からいぶかしげな顔だけのぞかせているのは姉の祥子(ショウコ)である。
「台所の机の上だよ。
ほらひと口だけかじってある」
キッチンのテーブルにはケーキをのせた皿がひとつ。
ラップがやぶかれ、端が大きくえぐられた様子だ。
「今朝ボクが家を出るとき、残っていたのは姉ちゃんだけだ。
ケーキにラップをしたときは何もかじられてなかった」
ケンタは探偵気取りで状況の整理を始める。
「学校が終わって、最初に帰ってきたのがボク。
そのとき家は留守だった。
そしてボクは2階で宿題を始めた。ケーキの状態は確認していない。
宿題の途中で姉ちゃんが返ってきた音が聞こえた。
宿題を終えて台所に行くと、そこにはかじられたケーキがあった」
姉は無表情で名探偵の演説を聞いている。
「つまり、ボクが最後にケーキを確認した後から
この状態を確認するまでの間、ケーキを食べることができるのは
姉ちゃんだけ、ということ」
「その理屈はおかしいわね」
階段を下りながらショウコは続けた。
「もうひとり容疑者がいるじゃない」
「もうひとりって誰だよ!?」
ケンタは食ってかかる。
「アンタよ!
この家にいたのは私とアンタでしょ?
そんならアンタが食べた可能性もあるじゃない!」
「ボクが食べたんならそもそも事件になんないだろ!」
ケンタは顔を真っ赤にして反論する。
「だって私が食べてないんだからアンタしかいないでしょ。
自分が食べたの忘れてんじゃないの?」
お互い一歩も譲らない。
「物的証拠が必要だな」
ケンタは虫眼鏡を取り出してテーブルをなめるように調べ始めた。
「ちょっとどきなさい」
ショウコはテーブルにアルミパウダーを散布し、耳かきのふわふわしたアレで指紋を浮かび上がらせる。
「なんでそんなの持ってんだよ!?」
「推理小説書いてる人間はこれくらいいつも持ち歩いてるの」
中学で文芸部に所属しているショウコが言うのだからそうなのだろう。
「うーーーーん」
大量の指紋を前に捜査は早くも暗礁に乗り上げた様子だ。
「これ姉ちゃんの指紋だろ!?」
「こっちはアンタのじゃない」
「最後にテーブルふいたのいつだよ?」
「知らないわよそんなの」
文句の応酬を続けながらケンタはなおも虫眼鏡で観察を続けた。
「あっ! これ何の毛だろう??」
ピンセットで拾い上げた毛は茶色のような緑のような不思議な色をしている。
「変な色ねえ。 ユウジかしら?」
「じゃあ兄ちゃんが犯人か!?」
いなかったハズの高校生に早くも嫌疑がかけられる。
ちょうどその時 玄関が開く音がした。
「うい〜〜す、ただいまぁ〜〜〜」
容疑者1名の帰宅だ。
「おー、2人で何やってんだ??」
「これ兄ちゃんの毛か??」
「んー、どれどれ」
ピンセットから証拠品の毛を雑につまみ上げると、片目をつむって観察を始めた。
「変な色だなあ・・・・」
勇次(ユウジ)の右手の先に全員の視線が注がれている隙に、彼のもう一方の手は別の仕事をしていた。
「パクっ!」
テーブルの上の最も重要な証拠品がユウジの口へ放り込まれた。
「ああああーーーーーーっっっ!!!!」
「アンタ何いきなり食べてんのよっ!」
「ボクのケーキーーィィィィ!!!!!!」
「むぁ、ほれヘンハのだったのふぁ?
ふぁりぃ、ふぁりぃ。
ゴクリ」
捜査は迷宮入りとなった。
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