第29話

 迷宮へと繋がってしまった穴を塞ぐため、魔物の猛攻を防ぎつつ火薬を仕掛け、さぁ点火!

 そして上の坑道へと続く階段の所までやってくると地響きがした。どこかで崩落したような、そんな地響きだったという。


「気にはなったが時間もなかったんでな。そのまま階段を上ろうとしたんだがあの通りだ」


 ドワーフの説明を聞き悠斗たちが階段を少し上ると、彼の言わんとした事はすぐに分かった。

 階段の上が塞がっていたのだ。どうやら巨大な岩が出口を塞いでしまったらしい。

 

「仕掛けた火薬が爆破すると、今度は下の入り口まで塞がってしまってな」

「上の大岩に僅かな隙間があったから、空気だけは確保できたんじゃが」

「はぁ、十日も経っておったか。そりゃ腹も減るわい。がははははは」


 ドワーフたちは今、悠斗が持っていたそれほど多くもない食料を貪っていた。

 屋敷を出せればバスチャンが喜んでご馳走してくれるだろう。だが坑道内で屋敷を出せばどちらかが破壊される。おそらく屋敷のほうだろう。


「さて腹ごしらえも済んだことだし、あの時の地響きの原因を探らねばのぉ」

「どこかが崩落したんですかね?」

「ただの坑道の天井が落ちたぐらいじゃといいんだが」


 よっこいせと重たい腰を上げるドワーフらの横で、ひとり不貞腐れている人物がいる。

 ルティだ。


 ドワーフは見つかった。迷宮へと通じる穴も塞がっている。

 なら温泉に行きたい。そう言っているのだ。


「も、もう少し待って。ね?」

「ぐぬぬぬ」

「一番風呂は君に譲るから。ね?」

「……べ、別に譲ってくれなくていいもん。い、一緒で……」


 ぼそぼそと他のドワーフには聞こえないよう、小声で呟くように口にする。

 その声は小さすぎて悠斗には聞き取れず、だが――。

 ルティの誤算はドワーフの耳が非常に良いことだった。


 一斉に振り向いたドワーフらの顔が――いやらしい。





 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 一行は悠斗らが来た道を引き返し、そこから坑道内に残った魔物を殲滅しながらあちこち歩き回った。

 だいぶん歩き回って一旦外へと出て、鉱山入り口の広い場所で屋敷で休憩。


「な、なんじゃこりゃー!?」

「そんなちっぽけな物から馬鹿デカイ屋敷が出てきたぞい!」

「はぁー!? 何故ゴーストが接客しておるのじゃ!?」


 ドワーフらは中へ入るなり驚いてばかりいる。

 執事のバスチャンはドワーフの胃袋を鷲掴みするため、厨房で鼻歌交じりにクッキング中。

 出来上がった物から食堂へと運ばれたが、ドワーフ二十一人の胃袋へとどんどん消えていく。

 バスチャン歓喜!

 悠斗はともかく、エルフのルティは小食過ぎてバスチャンの料理人魂は満足することがなかなか出来ていなかった。



 彼らの食事の隣でルティはサラダを少量ポリポリし、悠斗もパンとステーキ、それにサラダであっさり済ませる。


 食事が始まって二時間――


「小麦粉以外の食材が切れました」


 晴れ渡った笑顔でバスチャンがそう言った。


 ぐーすかぴーと食堂でそのまま爆睡するドワーフたちに、メイドゴーストらが毛布を掛けて回る。


「それで、お屋敷の修繕のほうは?」

「あ……いや、まだ掛かりそうで」


 心配そうに尋ねるキャロルたちに、これまでのいきさつをざっくばらんに説明。

 

「なるほど。ではここでドワーフの方々に恩を売っておけば、修繕費用はタダになるかもしれませんね!」


 ふんぬっと、キャロルはガッツポーズ。

 でもその恩を売るって、主に悠斗とルティの二人の仕事だ。あとバスチャン。

 その為にも不安が残り地響きの原因を突き止めたいのだが――。


 悠斗はぐっすり眠るドワーフらを起こさぬよう、静かに食堂を出ていく。その後ろを音もなくルティが追いかけた。


「疲れていないかい?」

「ん。平気だ。歩き通しで少しは疲れているが、温泉が私を呼んでいる!」


 温泉は意思を持たないので呼んでいないと思われる。

 だがひとりよりはルティが居てくれると心強い。

 悠斗は彼女と二人で再び坑道へと入った。


「問題は坑道内をドワーフ抜きで迷わず移動できるかという事だ。ユウト殿の銀板で坑道の地図など出るのか?」

「試してみよう」


 タブレットの検索機能で現在地を出すと、そこにはしっかりと坑道地図が映し出されていた。


「どこを歩いたかも分かればいいんだけど……『移動済みルートを色別表示』」


 そう再検索掛けると、坑道マップがグレーと赤のラインで色分けされた。

 今通って来た入り口から、半分ほどの坑道は赤い線になっている。つまり赤が既に歩いた道だ。

 タブレット片手にグレーの部分を目指して歩き、たまーに出てくる魔物は手ごろな岩を取り出し殴り飛ばしていく。

 ルティは光の精霊を呼び出し、周囲を照らす役目だ。他には特に何もしない。する必要がないからだ。


 数時間後、ルティの召喚したノームも分散させて全ルートの確認が終了。

 だがしかし、どこにも崩落した痕跡はなく。


 階段通路を塞いでいた大岩も収納し、この岩が落ちた地響きではなかったのかという結論に。

 だがドワーフたちはそれで納得しなかった。


 二人が地上へと出て短い睡眠のあと、昼になってようやく目を覚ましたドワーフらに探索結果を報告。


「いや、岩がひとつ落ちてきたような地響きではなかったわい」

「でも坑道は隅々まで確認しましたよ?」

「うぅむ……となると、残ったのはあそこだけか」


 ギルムは呻き、鉱山入り口を見る。

 そこは昨晩、悠斗とルティとで調べた全ての坑道の入り口だ。


「大空洞……まさかそこが落盤するとも思えんが」

「じゃが調べぬ訳にはいくまい。不安を拭えぬまま、女子供たちを村に帰すことは出来ぬ」


 ドワーフたちは頷き合い、各々武器を手にして立ち上がる。

 その時――


「パンと、アーディンさんが今朝捕って来てくれたボア肉しかございませんが、召し上がって行かれますか?」


 とバスチャンが食堂へとやってきた。

 ピクリと反応したドワーフ人が一斉に食卓へと着く。


「「頂こう」」


 こうして彼らは大量のパンと、ボア一頭分の肉をぺろりと平らげた。

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