6-11 王宮金貨
”王宮金貨”……世界が変わる前には、無かった硬貨だった。
その価値は、通常の金貨の1.5倍の価値があり、王宮に勤めている者たちにのみ支給されている金貨。
後で気付いたことだが、手持ちの金銭の価値が現世の価値に沿って変わっていた。
あの店主が不思議そうな顔をしていたのは、そういうことだったのだろうとハルナは理解をする。
明らかに容姿が怪しく、王宮の関係者ではないことが一目でわかる者が特別な金貨を使い買い物をする。
普通ならば、そういう者たちがその金貨を持っているということは拾ったもしくは盗んだと考えるのが普通だろう。
しかも、その金貨の存在がをわからないとなれば、その者は王国の者ではない可能性が高い……そう判断をして、あの店主は警備兵に通報したのだろう。
だが、オリーブがステイビルから引きはがされたようになった。
ステイビルは”用がなくなった”と言っていたが、その言葉はオリーブのことを気遣ってのことであろうと、あの時のオリーブの表情から見てもハルナはそう判断した。
「さて……お前たち、教えてもらおうか。その金貨どうやって手に入れた?」
エストリオは、ハルナたちを見て冷たく言い放つ。
世界が変わる前のエレーナの父親は、力強く優しさにあふれていた。
だが、こうして反対の立場に立つと、その力強さは恐怖にしかならない。
ハルナたちがエストリオからの質問に対し、言葉を詰まらせている。
そこに、力を振り絞りながらステイビルが答えた。
「この者は……私が……町の外で雇った……付き添いだ……エストリオ隊長」
これは明らかに、ハルナたちを庇うための言葉だった。
それがこの場で作り上げた話であることは明らかで、誰も納得させることなどできるはずはない。
「……わかりました。で、あれば問題ないでしょう」
「「……え!?」」
ハルナとサヤは、同時の納得のできない声をあげた。
最悪、ここでエレーナの父親と戦うことになることも覚悟をしていたのにも、その答えは肩透かしを食らったような内容だった。
そんなハルナたちの驚きを他所に、エステリオはさらに言葉を繋げる。
「では、こういうことですな?あなたは、外でこの者たちをオリーブをこのモイスティアで解放すること前提に雇い、あまりにもその者たちの容姿があなたの傍にいることに合わないためにあなたが王宮金貨を与えて、その支度を整えさせた……というところですな?」
「あぁ……まったく……その通り……だな」
そこから、エストリオの周りに纏っていた攻撃態勢のオーラは消え、笑顔こそは見せないが普段のエストリオの表情に戻った。
「わかりました……ですが、ステイビル様。この辺りをウロチョロとされては困ります。早くどこかに、行ってくださいませんと……今回のようにはいきませんぞ」
「……あぁ」
「よし。解決した、いくぞ」
そう告げると、エストリオの後ろにいる残った一人の警備兵が、ハルナたちを逃がしてしまうことへの危険を隊長に進言する。
だがエストリオは、本来の目的は”オリーブの奪還”であると告げ、その任は果たしたと言って聞かせた。
不満そうな警備兵を後ろに、エストリオは振り返りまた大通りへと戻っていった。
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