5-157 特別








(アンタ、今だけ協力してくれない?)





その内容は、ヴェスティーユはオスロガルムから身体の支配を取り戻してサヤのところに戻ってヴァスティーユの身体も取り戻したいという。


それが、ヴェスティーユからの提案だった。




ハルナから頼まれたフウカは、水の礫をヴェスティーユに大量に打ち付けた。

固形物よりは、ダメージは少ないとはいえダメージが全くないわけではない。

水とはいえ時速にして八十から百Km/h程度の速度でぶつけられば、雨の日に高速移動中の窓を開けて手を出した時のような痛さがチクチクと蓄積されていく。



初めはダメージの少ない水の元素をそこまで重要視していなかったオスロガルムだったが、コツコツと積み重ねられるダメージを気にし始めて、瘴気で撃ち落とし始めた。

だが、オスロガルムもヴェスティーユの身体に慣れていないため、打ち損じが生じて先ほどよりは少ないがダメージは徐々に蓄積されていく。


それを嫌がったオスロガルムはさらに、瘴気の弾の数を増やし撃ち落としていった。







(フーン……アンタの精霊、やるじゃない。あの時の精霊がこんなに成長するなんて……ね)






きっとヴェスティーユが言っていることは、モイスティアでのことなのだろうとハルナは気が付く。

確かにハルナもフウカも、あの時からすれば見違えるほどに成長をしている。


だが、敵であれそのことを褒められれば嬉しくないことはなかった。

そして、ヴェスティーユの言葉が続きつないでいく。






(オスロガルムは、まだアタシの身体を十分に使いこなせていないんだ。っていうより、アタシが制限をかけているんだけど……だからこれ以上の攻撃は出てこないから安心していいさ)



(ほ……ほんとうに?)



(いま、アンタに嘘を言っても仕方ないだろ!?あたしは今、この身体を取り戻したいんだ。そのためにはこいつの魔素を使買わせる必要があるんだよ)



(もしかして、それがさっき言ってた協力……ってこと?それで、一体どうすればいいの?)



(今のままでいいよ……このままオスロガルムの行動に注意しながら、アイツの魔素を減らしていってくれれば……にしても、アンタ。あの精霊と独立して動けるのか?人間の精霊ってこんなに進歩したのか?)





ハルナは、このことに対してどのように返事をするべきか迷った。

オスロガルムの件が終れば、いつかはサヤちゃんとも戦うことになる可能性があることは、ラファエルからも聞かされていた。

どこまで内情を暴露していいのか、だが断ることによって共同でオスロガルムを倒すことに問題が生じることになるのではないかという思いもどこかにある。


そうした中、ハルナの中でヴェスティーユからの質問に対するタイムリミットが来た。




(どうやら……私は特別みたいです)



(ふん、”自分は特別”ときたか!?……うーん。でも、アンタがお母様と一緒のところから来たっていうのだから、何か違うんだろうね)




ハルナは”自分で聞いておきながら……”と心の中でつぶやいたが、頭に思い浮かべるとヴェスティーユに伝わってしまうのでぐっと堪えた。




(お!そろそろか!?)




ヴェスティーユの言葉で、ハルナは意識を目の前の出来事にもどした。

オスロガルムはフウカの攻撃を耐えられなくなり、徐々に被弾する数が増えてきていた。



とうとう、ある時から瘴気の弾が向かってくることが無くなった。


そして……





「……よし。これで乗っ取り完了っと」





その声は、これまで黙っていたヴェスティーユの口から聞こえてきた。







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