5-124 駆け引き







「それじゃあ、お母様のところへ戻るわね。ヴェスティーユも頑張ってね」



「わかった、ヴァスティーユも頑張ってね!」





ヴァスティーユは振り返り、林の奥へと姿を消そうとしたその時……



「――あ!!」



背後から、緊張感の高いヴェスティーユの声が聞こえた。

ヴェスティーユがとうとうサヤから命令された目標物を発見したのだと思い、再び振り返ってその状況を確認しようとした。

そして、その考えが間違っていたことにヴェスティーユの表情で気付く。



「くる!やつが来るよ!!……オスロガルムだ!!」



ヴェスティーユの使役する悪魔が、オスロガルムによって消された。

そこから、ヴェスティーユの居場所を逆探知してこの場所に向かってきたことをヴァスティーユに告げた。



「逃げるのよ、ヴェスティーユ。さぁ……早く!!」




だが、ヴェスティーユは首を横に振り、その行動が意味をなさないことを告げる。

そして、二人の頭上から声がした。



『どこへ行こうというのだ?お前たち……』



オスロガルムは二人の前に降り立ち、腕を組んだまま対峙する。



「オスロ……ガルム」



ヴェスティーユは、魔神に対していま何をすべきか分からないまま、ただその名を口にしてみた。

きっといま、信頼できる姉がこの場を切り抜けるべき方法を考えてくれているに違いないと信じて。



「……オスロガルム様。ヴェスティーユは、サヤに命じられてハルナの居場所を探っていたようです」



「……え?ちょっ……」



ヴェスティーユは、先ほどまで信頼しきっていた姉の言葉を疑った。





『ふむ……そうか。しかし、なぜおまえはそのことをワシに言うのだ……サヤを裏切るのか?』



「裏切る……そういうつもりもございません。私はただ、この世界の崩壊を止めたいだけなのです」



そう告げた後ヴァスティーユは、オスロガルムに世界崩壊を止めたい理由を告げる。




ヴァスティーユが人として生きていた遥か昔、人を人とも思っていないような時代のこと。

いつ自分の人生が終わっても不思議に思わないそんな時代を生きてきたヴァスティーユからすれば、この時代に至るまでの変化はとても興味深いものだった。


それは、自分が死に直面していた時代から比べてその時々の人々や他の生物が、何を思い何を目的に生きているのかがヴァスティーユには興味があった。

ヴァスティーユはひそかに、その行動原理について秘かに情報を集めて分析を行ってきた。

まだまだ生き物たちが終わりのない進化が止まってしまうことに、ヴァスティーユは残念に思っていると伝えた。




『……ふむ。で、それはサヤには伝えたのか?』



「もちろんです。ですが、結果は……ご承知の通りですわ」



『そうか……で、お前にはあやつを止める方法があるのか?』



「そうですね……こういうのはどうでしょうか」



「おね……っっっ!?」





ヴェスティーユは瘴気によって腕と足と口を縛られ、身動きが取れないためずバランスを崩して受け身をとることもなくその場に倒れ込んだ。




「……まずは、これを餌に誘き寄せてみてはいかがでしょうか?」










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