5-105 闇の世界4









「ごっ!?……げほっげほっ!!」




地面の上で四つん這いになり、サヤは息苦しくせき込んだ。

着地する瞬間、落下する速度が何らかの圧の反発によって殺されたとしても、その衝撃はそれなりのものだった。

痛みや恐怖を感じないサヤの身体で会っても、そのままの速度で衝突をしていればきっと、速度と重力で叩きつけらたその身体は砕け散り中のもの全てをばら撒かせていただろう。



痛みを感じない身体ではあるが、そうなったときには一体どうなってしまっていたのだろうか。

強く咳込みながらも、そんなことを考える余裕がサヤには残っていた。




「……ったく。もうちょっと丁寧に扱いなさいよ。大事な身体なんでしょうが!?」




『……ふん。それだけ話せるならば、問題はなさそうだな』



「その余裕……アタシにここまでしておいて、ほんっと腹が立つわね」




そう言いつつサヤは立てた片膝に手をかけ、それを杖代わりにしてゆっくりと上半身を起こした。

上を見上げ、木々の間から見える自分がいた場所の崖の途中に小さな空洞が見える。

あの大きさが小さく見えるということは、結構な距離を飛ばされたのだとサヤは気付いた。



サヤは肩をすくめ両手を開くポーズをとり、どこにいるかわからない存在に向かって話しかけた。



「それで、どうすればいいの?あたしはあなたのこと見えないんだけど、ここでじっとしておけばいいの?」



その声に応じるように、少し離れたサヤの左側で風が渦巻くのが見える。

きっとその存在が自分の、居場所を教えてくれるためにやってくれたのだと理解した。



『……これでどうだ?』


相手を気遣う人間っぽいその対応に、サヤは久々に人間であることを実感して嬉しくなった。




「あぁ、ありがとう。それでね、まだいくつか聞きたいことがあるんだけど……安心してよ、約束は守るからさ。それを聞いたからって言って、さっきのことはナシってことには絶対しないから」



『……何が聞きたい?お互いのために、答えられるものなら何でも答えよう』



「そう……それじゃあ聞くけど、あんたは神様とかっていう良い方の存在じゃないんだろ?だってそうであれば、交換条件なんか出さなくても助けてくれたはずだしさ。さっきも言ったけど悪魔の部類じゃないかって思っているけど、あんたって一体なに者?それと、なんであたしなの?なんか今まで失敗してきたようなことを言ってたけどさ。何であたしだとうまくいくの?」




『……そうだな。まず初めの方から答えよう。ワシが何者か……という話だったな』



サヤは少し疲れたのか、その言葉の途中で大きな岩が出ているところを見つけてそこに腰を下ろす。



『……それはワシにもわからん』



「はぁ!?何それ……!」



サヤの呆れた大声が森の中に響くが、その存在は動揺することなく話を続ける。




『気付いた時からこのような状況だったからな。それにいつ存在し始めたかなど、覚えておらんわ。ずっとあの場所にいたわけではないが、気付いたらあの場所にいたのは確かだな』




時折あの洞窟の中に、あのような場所に到達できる羽や崖を登れる吸盤などの機能を持った小さな生き物が到達することはあった。

だがその生き物たちでは、行おうとしている本来の目的は達成することができなかったのは、先ほどの話した通りだと告げる。



「ふー……ん。それで、なんで”あたし”がってことになったの?」



『それは、お前がこの世界にはない新しい感情を持っておったからな……』





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