5-76 交渉










「……あら、皆様お集まりのようね」





その姿を見たエレーナが声を荒げる。



「あんたは……ヴァスティーユ!!!」





誰も閉めることのない開けたままの扉の向こうには、倒れいている警備兵が二人横たわっているのが見えた。

エレーナの声を感じ取ってか、王と王妃の横に控えていた騎士団長と精霊使い長が二人の前に立ちその身を守る。


二人の王子と精霊使いを間にしてアルベルトとソフィーネが前に立ち、キャスメル側はアリルビートとカルディが前に立つ。





「どうやらこれは……歓迎はされていないようですわね。せっかくあなたたちの味方を守って差し上げましたのに」



「味方?だれのこと……」




ステイビルがそう告げようとした時、キャスメルが声を大きくして叫ぶ。





「クリエを……クリエを返せ!!今すぐに!!!」






その言葉に事情を知らなかった、ステイビルのメンバーも事情を推測することができた。

だが視線は目の前に現れた敵から外すことはなく、エレーナとハルナもいつでも攻撃できるように準備した。



そんな殺気を感じ取ってるのか、それらを物ともしないのか、ヴァスティーユは気にせずに広間の奥へと進んでいく。





「今回、私はお母様の代理で来ております。ちょっと交渉をしたいのですが……」



「お母様って……サヤちゃんのことよね?」





ハルナの言葉に、ヴァスティーユはハルナに視線を送り、すぐにグレイネスに戻す。

その視線を感じたグレイネスが、騎士団長の肩越しからヴァスティーユに話しかけた。






「交渉と言ったな?それはどのような内容か聞かせてもらおうか?」



「西の王国が持っていた剣、こちらに渡してくれないかしら?」



「西の王国の?……どうしてそんなものが欲しいのだ?」



「それはあなた達には関係のない話……あなた達は交渉に応じるかどうかを決めればいい話よ。それで……どうするの?」



「少し、時間を頂けるか?」



「……力で奪い取ってもいいんだけど、それはお母様に止められているから。いいわ、早めにね」






バスティーユは石を手にしたまま、腕を組んでグレイネスたちの様子を伺う。



ステイビルやキャスメルたちは、グレイネス王の周りに集まった。

それと同時に騎士団長が合図をすると、ヴァスティーユとの間に数名の騎士が立ちはだかった。

ヴァスティーユは、その行動に対し鼻で笑ってみせる。

その程度の警戒は、まるで意味がないと言わんばかりの態度で。





そして、数分後話し合いは終わり、ステイビルたちはヴァスティーユの前に戻っていった。






「さて、返答を聞かせていただきましょうか?……と言っても選択肢はあってないようなものだけどね」



「剣はこの場にあります……」





ハルナが一歩前に出て、バスティーユに話しかけた。





「……ですが、本当にクリエさんを返してもらえるのかの確証がなければ応じることもできません。持ち逃げされるのは嫌ですからね」






ヴァスティーユはハルナの姿を冷ややかな目で見る、この場にハルナが出てくるとは思っていなかったようだ。





「ハルナ……あなたはお母様のお知り合いということですが、自分は傷付けられないと思ってはいらっしゃいませんか?先ほどもお伝えした通り、交渉に応じていただけなければ力づくで……」



「であれば、私たちもそれを阻止するために全力を尽くします。私たちはいま、何も知らないのです。総てにおいて……そのような不明確な条件の中で、そちらの一方的な要求には応じることができません!」



「それがお前たちが時間をかけて……出した答えか?……調子に乗る……!?」






怒りの感情が沸き立つヴァスティーユに異変が見られ、ハルナたちは緊張したまま状況を見守る。

ヴァスティーユは、目を瞑ったまま何か考え事をしているのか黙ったままだった。





「……わかりました。……さま」





ヴァスティーユはそうつぶやくと、目を開けて持っていた石をハルナたちに向けた。


そしてハルナたちとの間に、見覚えのある存在が姿を現した。




「「も……モイス様!?」」




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