5-71 魔神の目的





モイスは人々が、逃げるために時間を稼ぐために囮になると言った。

いつもの状況であればその言葉は頼もしい言葉に感じるが、同じ神の存在である魔神が相手となるとどのような結果になるかはまるで想像できない。

しかし、キャスメルたちが手を貸したとしても、モイスの役に立つとは到底思えなかった。

むしろ、サヤに捕らわれているクリエと同じような状況となる可能性の方が高いと思われた。



キャスメルたちは、ありがたくモイスの申し出を受けることにしステイビルたちと合流することに専念することにした。




『お前たちは町の者を逃がすように指示するのだ、そしてステイビルたちを探し出し協力せよ!』


「「はい!」」



「モイス様も……どうぞご無事で」



一番最後に部屋を出たシュクルスは、振り返りモイスの無事を祈った。











「……ヴェスティーユ!」



「はい、お母様……ここに」



「お前は、あの王子の後を追っていくんだ……やることはわかってるよね?」



「はい……お任せください」



「あ、外の戦いには巻き込まれるんじゃないよ!」



優しさなのか何なのかよく感じ取れないサヤの言葉に、ヴェスティーユは一度だけ頷いて返事をして空間の外へと出た。




サヤはヴェスティーユが外に出た後、空に浮かんだ外の状況を映し出している映像を見る。

そこには先ほどまでサヤの空間に捕まっていたモイスが、羽の生えた悪魔に対し圧倒的な力の差を見せつけて殲滅させている。




「へへっ……強いのは強いんだねぇあのトカゲは。でも、アイツはどう対応するのか見ものだねぇ……クククっ」



サヤはヴァスティーユが用意した椅子に腰かけ、映画でも見るかのようにリラックスした姿勢でその映像を眺めた。











空を飛ぶ悪魔に対し、モイスは広範囲にブレスを吹きかける。

ほんの僅かでも、モイスのブレスに触れた悪魔たちは触れた場所から凍らせられ、全身が凍ってしまうと墜落していく。

地面に叩き付けられた氷の塊は、粉々に砕けて霧のように空気の中に消えていった。

モイスは、グラキース山の山頂を覆う曇り空のような百匹近い悪魔を一体で相手にしていた。

力の差は明確で、ブレスをかいくぐりながらどんなに束になってかかっていっても、モイスは尾や鋭いかぎ爪の手で次々と悪魔を霧に返していった。



そして、残り十数匹まで数を減らしモイスは叫んだ。




『そろそろ出てくるがいい、魔神よ!!こんな雑魚ものでは、ワシを倒すことはできんぞ!!』




『……どうやらそのようだな』




その声と同時に、モイスの呼びかけに応じたオスロガルムは姿が表す。

それと同時に、威嚇を続けてきた悪魔たちはモイスへの攻撃を止めた。



モイスはキャスメルや山のふもとの者たちが、無事に逃げ切れるように時を稼ぐことを目的として会話を試みる。

サヤから聞いていた情報もあるが、ここはまず知らないフリをして気付かれないように進めることに決めた。

併せて相手の目的も探ろうと、モイスは魔神に問いかけた。





『ここはワシの住処と知ってのことか?何の目的でこの場所を攻めに来た!』



『勿論だ、水の竜よ。だが、目的はお前のことではない』



『では、何をしにここへきた?ここまでされては返答次第ではお主をこの世界から消してまってやろうぞ』



『ぬかしおる……!探しモノが見つかればゆっくりとお前の相手をしてやろう』





モイスは、オスロガルムが剣を探していることが間違いではないと今の会話から判断した。

であれば、なおのことキャスメルたちがこの場を離れるための時間を稼がねばとオスロガルムとの会話をさらに続けることにした。



『探しのもだと?それは一体、どの様なものなのだ?』




『水の竜よ……お主、この辺りで”サヤ”というものを見かけなかったか』









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