5-32 サナの心配










『……はーい、そこまでにしてもらいましょうかね』




その声と同時に、この狭い空間の中に光が溢れてその中に人影が現れる。




『関係のない余計なことを口にするもんじゃないよ……シュナイド』



ブンデルの頭の中は、破裂しそうなくらいに更に回転数が上がる。

この状況に更なる大きな力を持っていると思われる存在が現れたことによる、この先の状況のシミュレーションを繰り返し変更していた。

できれば味方……もしくはシュナイドを押さえつけてくれる相手であれば嬉しいことはない。

最悪なのは、シュナイド側の存在であった場合。

しかも、この場所に現れたということは、”最悪”のパターンの可能性が高いと判断する。

楽観的な推測は、自分の身に良いことは一つも起きはしないと知っているから。





そんなブンデルの心配を他所に、サナは光の中から現れたショートヘアの人物に向かっていった。

その行動が目に入ったときに、ブンデルが止めようとしても遅かった。



「あ……あなたは、一体?」



『お二人は……初めましてだね。私の名前は”ガブリエル”……水の大聖霊って言われる。あんまりこの呼ばれ方は好きじゃないんだけどさ。ま、とにかくよろしくねー』



ブンデルはその名前に、心当たりがあった。

それはハルナたちの話を聞いた際に、モイスティアでの騒動においてラファエルと一緒に助けてくれた大精霊の名がガブリエルというなということを覚えていた。


(こんな場所に……なぜ?)




ブンデルはサナに続いて、この場で発言をする。



「……もしかして、ずっとこの状況をご覧になっていらっしゃったのでしょうか?」




『えぇ、そうよ。このシュナイドをね、見守る役を任されているのよ!……ほんっと、ラファエルったら……』



何かを思い出したようにガブリエルはぶつぶつと独り言をつぶやいている。

この状況をなんとも思ってないかのように。


この状況で、シュナイドは何も言葉を発していない。

きっとシュナイドにとっては不利な存在が現れたのではないかとブンデルは考える。

ハルナたちの味方である水の大精霊ガブリエルがこのまま味方についてもらえればこの危機は脱することができる……と。



「ということは、ガブリエル様はずっとこちらにいらっしゃっていたのですか?」



『そうね、ずっとみていたね。あなた達がここにくるまでも、ここに着いてからのことも……ね。あ、なんで助けてくれなかったのかとか?それは大丈夫、こいつにあんたを食べさせることはしないからね!』



「ここで一体何をされていたのですか?」



『ずっとね、こいつを監視していたのよ。ラファエルに頼まれてさ、ほら私の属性が水だからさ。私しかいないとかなんとか調子のいいこと言ってね』



「モイス様との争いの後……からずっと、ですか?」



『そう、ずうぅぅぅぅっ……とだよ!こいつ話しかけても何も言わないしさぁ、面白くも何ともないんだよね』



『……』



ガブリエルの呆れた態度に対しても、シュナイドは何も口にしない。



「あの……ガブリエル様。お伺いしてもよろしいでしょうか?」



『ん?何かな?』



ガブリエルは腕を組んだポーズになり、サナからの質問を待ち受ける。



「ガブリエル様……シュナイド様はここから外に出てはならなかったのですか?」



サナからの質問に、ガブリエルは予測していなかったため目が大きく開いた。

そして少し真面目な表情になり、サナの質問に答えた。




『いいや、シュナイドは外に出てはいけないということはなかったよ。私がそれを抑えつけることもなかった』



「ということは、シュナイド様は外に出られなかった?」



その言葉がきっかけで、ブンデルの思考の中に新しい条件が追加された。

そこからすぐにある結果に到達したが、サナがすでにその可能性にたどり着いていたことに驚いた。

それはサナ特有の勘の強さによるものかもしれない、ブンデルがサナに良くない考えをしていた時にはすぐに指摘が入っていた。

ブンデルは顔や態度に自分の考えが表情や動作に出ていたとも思ったが、何もないときにでもサナはそれに勘付くこともあった。

おっとりしている性格だが、その辺りの感覚は心強くもあり悪いことをしようとするブンデルにとっては持ってほしくない能力だった。



しかも、結果的のそのサナの感覚は正しいと証明される。

シュナイド自身の言葉によって。


『……フン、ワシも落ちぶれたものよ。こんな小さな生き物に……心配されるとは……な』







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