5-29 みつぎもの





『ムシケラめが……こんなところに何をしに来た!』








ブンデルとサナの頭に直接響く声、こういうことができる存在は今まででは水の大竜神しか知らない。


そのことがすぐに浮かび、ブンデルとサナはその場に片膝を着いて頭を下げた。






『フン!ワシの存在に怯えず、その態度を取れるか!?とはいえ……ここまで許しや手土産もなく、入り込んだこと万死に値することぞ!己の行為の愚かさを知り、この世から消え去れ!!』






「お……お待ちください!?」






ブンデルは自分たちの身に、何か良くないことが降りかかる直前に声を出した。


頭を上げることを許されていないため、その声の存在はまだ確認できていない。


ブンデルたちよりも巨大な存在が、ブンデルたちを簡単に消すことができる程の力を持つ。


その意思は絶対的であり、ブンデルの声がかかろうともその行為を止める必要は全く、死への力を振るうだけでよかったはずだった。


そうしなかったことの理由を探ろうとしたが、それよりも早く大きな存在がブンデルに告げた。






『ようやく”手土産”を差し出す気になったか?久しくドワーフの肉は喰ろうてはいないからな……それとも、エルフお前の身体を差し出すというのか?エルフの血も近頃は啜っておらんからな。もうあの味も忘れてしまったわ!』






その言葉を聞き、ブンデルの身体は力を込めて固くなる。


サナは恐怖で固まっているのではないかと、目すらも動かさずに意識だけサナに向ける。


驚いたことに……いや、サナはドワーフの村の村長の一人。


死をもたらす大きな存在の恐怖を前にしても、その態度は怯えることなく自分たち……最悪ブンデルだけでも生還できる方法を探しているのを感じた。






そこからブンデルは落ち着きを取り戻し、この状況を何とかしようと頭の回転の速度を二つほど上げた。






ブンデルは足りない情報を何とか集めなければならないことに気付いた。


そうすることにより、この大きな存在がステイビルたちの敵であれ味方であれ、この先の旅において必要になってくるはずと結論付けた。




そのためにも先ず、ブンデルは交渉を持ち掛けた。








「偉大なるお方よ……勿論です。あなた様への貢物は、この通りご用意しております」






『おぉ!?そうか、そうか!それでは早速、それを差し出すがいい!!……確かエルフとドワーフはお互いの仲が悪い種族であったな?では、そのドワーフの女が、ワシへの貢物か?』






その問いに対し、ブンデルは見えない存在に対し顔を上げて告げる。






「偉大なるお方よ……差し出す前にいくつかお伺いしたいことがございます」






そのことに対して大きな存在は、先ほどの食事が与えられる喜びに対してよかった機嫌が不機嫌に変わったことを感じる。


これは失敗かとブンデルは悔やむが、一度出した言葉は戻ることはない。


このままじっと、相手の反応を待った。








『……ダメだ。一つの獲物に対して、質問は一つだけ許そう。これでも最大の譲歩だ、力ですべてを奪っても構わないのだから……な。だが、ここまでこれたその力と、ワシに”交渉”を持ち掛けようとしたその蛮勇を称え一つだけは質問に答えようぞ』






ブンデルは想像はしていたが、”答えてくれない”という最悪な事態にはならなかったことに安堵する。


次にやることは、たった一つだが情報を持ち帰ってもらうこと。


その情報の選別が必要だったが、ブンデルの中では既に決まっていた。








「感謝します、偉大なるお方。それでは無知で愚かな我々に”あなた様のお名前”をお教えていただけませんでしょうか……」








『よかろう……ワシの名は”シュナイド”。火を司る竜とはワシのことだ、覚えておくがよい!』






「ははっ。ありがとうございました……では」






ブンデルが言葉を続けようとしたが、それよりも先にシュナイドが待ちきれずにブンデルに要求をする。




『それで、お前が差しだすのは……その柔らかいドワーフの肉か?また何かあったらドワーフを持ってくるがいい。旨ければお前たちの味方をしてやっても……』






「シュナイド様!」






ブンデルは、シュナイドの話の途中で大声をあげた。


勿論それが、無礼なことであることはブンデルも承知している。


それでも、これ以上サナを危険な目にあわすことはブンデルの中で我慢が出来なくなった。






「……貢物は私です!どうぞ、私をお食べください!!」




















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