5-11 キャスメルの憂鬱1






双子として生まれ、兄と弟という分けられた地位によって、いつしか二人の間に差が生じてしまっていた。

そのことに疑問を抱き始めたのは、兄というステイビルの姿を見てからだった。


ステイビルも兄という名のもとに、弟よりも立派であるべき存在として努力を重ねている姿が記憶の中にある。

しかし、キャスメルも双子であるため年齢的にはそんなに差はないはずだ。

思い当たるところは、兄と弟という立場の区別……差を付けられたせいではないかとキャスメルはそう思うようになっていた。


かといって、いまさら立場を逆にされても、ステイビルのように立ち回れる自信はキャスメルにはなかった。



年齢が重なるにつれ、その差が徐々に開き始める。

ステイビルは武術、知識などにおいて、身体が成長するにつれ上達する速度が比例して増していった。

一方、キャスメルは及第点程度にはこなせるが、ステイビルには敵わないと全てが適当なところで終わってしまっていた。


しかし、そんな気持ちもある日をきっかけに変じることになる。


物心がつく前からステイビルとキャスメルの世話をしてきてくれていたメリルが、実の姉でないことを知る。


二人はいつからか、年齢の近いメリルに好意を抱いていた。

多忙な両親に構ってもらえることが少なく、与えてもらいたい愛情の求め先はメリルに向けられ、二人にとっては身近で落ち着ける場所だった。


身近な異性に対し恋愛感情を抱くことは、どの世界でも起こりうることだった。

王子という出会いの少ない地位では、身近な存在がその感情の目標になることは自然の流れだった。




ある夜、ステイビルとキャスメルはお互いに自分の気持ちを口にし合う。

何となくわかっていたことだが、二人は恋愛対象としてメリルを選んでいた。


この兄弟はどちらかが、強く自分の主張をすることはなかった。

様々なことを身に付けていく中で、王子として立場も理解するようになる。

ある特定の派閥など東の王国内では聞いたことがなく、王家転覆を謀ったりする存在もなかった。


だが、その火種となることを避けるためにも、兄弟で争うことはよくないと誰から言われるわけでもなく二人は気付いていた。



そのため、二人はメリルを恋愛の対象とはしないことを誓った。

その日からお互いに、恋愛について話をすることはなかった。




キャスメルは、心の中に開いた穴を埋めるべくその対象を見つけた。

その相手はウェンディアだった。


当時、ティアドも王宮内によく足を運んでいた。

そこで見かけ、当然ながら向こうから声を掛けてくれた。

その時のことは、今でもよく覚えている。

礼儀はあったが、同じ友達を見つけたような感覚で接してくれたウェンディアのことを。



キャスメルは今度こそは”失敗”しない様に、ステイビルよりも前にウェンディアと話すことを心掛けた。

同年代の者として、友達のように接して欲しいと。


だが、王宮の中でキャスメルだけということはできるはずもなく、ウェンディアはステイビルとも顔を合わせることになる。

だが、ウェンディアはステイビルに対しては、”王子”として接していた。

そのことが、キャスメルにとっては嬉しかった。


自分は一人の友人として、ステイビルには王子として接していることに。



ウェンディアは度々王都に来る、キャスメルはそのことを知るとわざとウェンディアの近くを通り過ぎるようにしたりした。

そこで気軽に立ち話をしたり、時にはお茶などを一緒にすることもあった。


キャスメルは頭の中に、自分の将来を描いていく。

そこにはウェンディアと共に、王宮の中で幸せに過ごしている絵を。



幸いにして、ステイビルはウェンディアを狙っている様子もない。

ウェンディア自身の気持ちは……直接は聞いていないが、きっと悪い感じは持っていないだろうと考える。

そうでなければ、こんなに親しく接してくれるはずはない……と。

そうして、キャスメルの中で期待が広がっていく。



さらに時間は流れ、自らが王選に挑む時期がやってきた。

だが、キャスメルの今までの人生の中で最悪な報告を受ける。







ウェンディアが失踪した――と。






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