4-109 探索開始






ハルナたちは馬車にしてはゆっくりとした速度でガラヌコアの町に近付いて行く。

メリルは自分の精霊と共に周囲の元素を取り込み、遠距離の攻撃に対してすぐに氷の盾を出せるように準備をする。

ハルナもフウカと一緒に周囲の元素を取り込み、攻撃に備えて準備をする。



「こほ、こほっ」



小さくてかわいらしい音で咳が聞こえた、ハルナの隣にいるフウカだった。



「どうしたの、咳なんて珍しいじゃない」


「何か……埃っぽくない?」




ハルナは自分の鼻と喉を確認するが、特に埃っぽさを感じない。

もとの世界では花粉やハウスダストに反応するアレルギーを持っていたが、不思議とこちらの世界に来てから花粉症は発症していなかった。

埃っぽかった場合、ハルナは目に痒みが現れるはずだが今は感じない。

近くにいるメリルに顔を向けると、メリルは首を横に振って応えた。


今でもフウカは少し咳をしているが、大丈夫といって懸命に咳を堪えていた。



砂丘を下っている感覚が終わり、平地の上を走っていることが感じられる。

更に警戒心が高まり、ハルナの心臓の鼓動が耳の中でうるさく鳴り響く。



メリルは、馬車の乗降用の扉に付いた窓を開け顔を出して辺りを警戒する。




「……?」





メリルは不思議に思う。

こんなに町に近付いても、誰も出てこない。

本来なら”獲物”から近付いてくることに対して喜びながら飛び出してくる……はず。

だが、誰ひとり……様子見の下っ端の者さえ出てくる気配が感じられない。



「だけど何が起きるかわからないですから、気を引き締めていきましょう」



ハルナの呼びかけに、メイヤもメリルも了承の返事をする。

そして馬車は、何事も起きないまま町の入口までたどり着いた。


ハルナとメリルは馬車を降りて、砂漠の中の町に降り立つ。





「誰も……いないのかしら?」


「人の気配はないようですね」





ハルナの独り言のような言葉へメイヤが言葉を返す。



メリルがある建物の傍に近づいていく、大声で呼び止めることはできないのでハルナとメイヤはその後ろをついていった。

メイヤはメリルの肩を掴み、自分が先に前に行くことを無言で合図した。

そして先頭の位置を入れ替わり、メイヤはハルナたちを少し後ろに離れさせメリルには背後の状況を見てもらう。

周囲の状況が確認できたところで、メイヤは合図をしてゆっくりと扉を押し開く。

開いた入口は、気圧差か外からの空気を取り込んでいる。

メイヤはその中に、毒使ったような形跡はないと判断した。

だが、静かなようで何かの気配はうっすらと感じる。


念のためメイヤは鼻と口を布で覆い、顔を隠す意味と毒のようなものからわずかながら身を守る行動をとる。


腰に下げた短剣に手をかけ、メイヤはゆっくと注意を払いながら建物中に足を踏み入れる。

そこにはトラップらしきものはなく、普通の建物の床が続いていた。

その奥にもう一つ扉があるのを、昇り始めた太陽の明かりが高い位置にある窓から入り込み確認した。

メイヤは、短剣の柄で数回扉を叩き反応を探る……だが、この建物に入ってきた時と同じく反応はない。

ゆっくりとその扉を開けると、次の部屋の中には独特な臭いが立ち込めていた。



その臭いは鉄の臭い……壁と床には噴出した血が溢れており、頸動脈を切られ絶命した死体が一つ転がっていた。

メイヤはその死体を見て、不思議に感じる。

この部屋や死体を見て、争った形跡はなかった。

整頓はされていないが、机やイスはそのままの状態で残り、男の腰に下げている剣も抜かれて形跡はない。


メイヤは何かがおかしいと感じ、一度建物の外に出ることにした。

開いていた扉は閉じられ、外にいるハルナたちの気配は感じられない。


メイヤは焦ることなくゆっくりと扉を引き、ドアの影に隠れて外の様子を探る。

ドアのヒンジの隙間からは、先ほどまで一緒にいたハルナとメリルの姿はない。

それどころか、外には誰もいる気配がない。

もう一度周囲を確認し、扉の影から姿を出してゆっくりと家の外に身を出した。



その瞬間、メイヤは自分の首に細いワイヤ―状の紐が輪の状態で掛けられているのに気付いた。









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