4-96 砂漠の施設10









――ドっ!!




シーモが立っていた場所には、ナイフが二本刺さっていた。



「へー……よく交わしたね?まぁ、そこの女性のおかげなんだけど」



ソフィーネは暗闇から発せられた声に向かい、短剣を構える。




「あなたが、裏切ったっていう本人かしら?」




そういいながら、ハルナとシーモを自分の後ろに下げその身を護る。

ハルナも、シーモを自分とソフィーネの間に挟んで立ち、同じくシーモの身を護ろうとする。




「そうだとも……俺が裏切った本人さ!」




男は裏切ったことを楽しそうに話しながら、暗闇の中からその姿を現した。



「ロイのやつ……こっちの仲間になるように誘ったんだけどさ、あいつ最後まで拒否してさ……さらには俺を脅してきたんだよね」



「……だから、殺したと?」



「そ。粉の作り方もある程度盗めたし、もうあいつには用はなかったし」





男は手の上でナイフをくるくると宙に投げて、回して遊びながらその姿を明かりの届く範囲に見せる。




「で、あんたたちは誰?こいつらの組織の者じゃないみたいだけど?うーん……警備兵の人?見たことないけど」



「ちょっと人を探しててね……シーモに協力してもらってたのよ、お互い助け合うという条件でね」



「ふーん……そうなんだぁ」



目の前の男は、上から下までなめるようにソフィーネのことを見る。

この者たちには、特に強さや特殊能力を持ったような感じは見受けられなかった。



(シーモはこいつを呼びにいったのか?いや、こいつと後ろの奴はそもそも見たことがないし……消しても問題ないかな?)




そう判断した男は、遊んでいたナイフを上に向けて放る。

その様子は手に持っていたものが消え、手品のような動きを見せる。



――カカン!!


何か金属が跳ねたような音がする……と同時にガラスが割れたような音が二つ響き渡る。




カラ……ン



ソフィーネの足元には、先ほど男が投げて遊んでいたナイフの柄だけが転がってくる。

ナイフの刃は、何かにあたったのか半分から折れていた。

それを見た男は、攻撃を仕掛けたことがバレたこと気にすることもなくニンマリと笑っていた。




「へー、驚いたね!これをかわせるなんてね?あんたら……もしかしてどっちかが魔法……いや、精霊使いかな?」





そういうと、男の両手手首をクルリと一回転させた。

その後には親指以外の指の間にナイフが現れた、まさに手品師のような動きで。



「……精霊使い?……あぁ!思い出したぞ!いまこの国は王選の最中で、王子と精霊使いがこの国内を這いずり回って旅してまわっているとかランジェの奴が言ってたな!」





「ラン……ジェ?あぁ、あの女の知り合いなのね……牢獄の中で殺されてたみたいだけど」


「おぉ、そうだよ!あれ、俺がやったんだよね!王国の中の奥別な場所っていうから気を付けていったんだけど、結構簡単でさ……あれ、もしかしてあんたがランジェを倒した本人?」



その言葉には何も答えず、ソフィーネは男の挙動に注意を払う。

この手の男は、ふざけた振りをして奇襲をかけてくることが多い。

そんな手にやられるソフィーネではないが、後ろにいる二人のことを考えると慎重な対応に出なければならない。



「へぇー黙っているところを見ると、やっぱりそうなんだ。ランジェってさ……実のところあんまり好きじゃなかったんだよね?顔は好みだったんだけどさぁ、元諜報員だっけ?そのプライドがうざくってさ……何かあれば”諜報員では”ってさ、実力的には大したことないのにうるさかったんだよね、あの女はさぁ」




「そう……ひとつだけ答えてもらっていいかしら?」



「ん?なんだ?……まぁ、いいさ。どうせ最後なんだし、一つくらい答えてあげるよ……まぁ俺が知っていることと教えられることならね……なに?」




「……あの女。ランジェをやったときは、拘束されていた状態だったの?」





「もちろん……だけど、あいつは俺に気づかないままだったんじゃないかなぁ?抵抗する様子もなかったさ、俺のナイフがあいつを仕留めたんだ!」




「フーン……わかったわ」



「どうだ!やっとわかったか俺の強さ!?だけど、もう泣いても叫んでもだめだからな!お前たちは俺の餌食となり……」






男は後ろから口を塞がれたことに驚く……そして目の前にいた女が一人いなくなっていることでその状況を把握した。

だが、男には何も手出しをすることができなかった。


男の頭の中に浮かんだことはひとつ





――動けばやられる









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