4-83 指令本部での攻防12







「だがな……そのアブダルに連れてこられてたと思われる女性たちについては少し心当たりがあるぞ」




「ほ、本当か……いや、本当ですか!?」




勢いよく食いついてくるクリミオの言い直しに、グラムはにっこりと笑顔を向ける。

しかし、一瞬にしてその表情は素の厳しいものへと変わる。



「あぁ……しかしなぁ。それがお前たちの望む物かわからないが」



そう、クリミオも今まで何度も拾い集めた情報で新しいものが見つかるたびに期待した。

してはいけないわけではないが、それが全く意味のないものだったときの喪失感は大きい。

そのことは、グラムも理解していた。だからこそ、期待をさせ過ぎてはいけないと気を使った。



「今は何でもいいから、情報が欲しい……その真偽はこちらで判断する、知っていることを教えて欲しい」



「……わかった」




そう言ってグラムは、自分の知っていることを語り出した。



アブダルは、どこからか女性をこの町の中に連れてきていた。

その女性たちの目的は、息子べラルドの相手だった。相手と言っても当然、配偶者にするためではない。

ただの遊び道具として、連れてこられた女性たちだった。



当然ながら、そんな者たちの居住環境はいいはずもない。

一部の警備兵はその者たちの世話を任されることにもなった。


だが、そんな状況の中である警備兵の一人がとある女性に恋心を抱いてしまう。

その男の名は、ルクーといった。

グラムはルクーから相談を受けていた……どうすれば、べラルドの元から助けてあげることが出来るかと。


最終的には、べラルドに忠誠を誓うことで女性の自由を許された。

べラルドにしては、既にその身体を遊び尽くし飽きがきていた。

それを自分の部下に与えることで、自分への忠誠を誓う者が増えることは自分のことをよく思わないものがまだこの組織の中にいることを考えると、一人でも見方を増やすことは良いことだった。

特にルクーはまだ一兵卒だが、人望も厚く先には分隊規模を任すことが出来る実力を持つ者だった。

そんな者を味方につけることは、べラルドにとって大きな利益となる。



グラムは最初その案を伝えた時は、ルクーの将来を心配したが本人がその作戦を気に入った。

『そうすればあの女性を助けることが出来る』と、ルクーはそれを実行に移した。


べラルドはそのメイという女性をルクーと引き合わせ、メイに自由を与えた。

更には半ば強制に近い形で、一生を共にすることも命じた。



グラムは、その後ろには自分に忠誠を誓う者を集めるための一つの策であると感じてはいが、ルクーの幸せを考えるとこれで良かったのだと納得した。



しかし、ルクーの幸せは僅か一年足らずで終わりを迎える。

ソイランドの警備兵の歴史の中で、最も最悪な出来事が起きてしまう。


――魔物襲撃事件



そこに参加していたルクーは、惜しくも愛した人残したままこの世を去ってしまうことになった。




「……ということは……その”メイ”という女性が……ベルさんっていう人の可能性が?」



「何とも言えませんね……あの時そのメイという女性を含めて四名の者がこの町に来ています。それに、そのメイという女性はルクーが亡くなってからどこに行ったのか分らないのですよ。私もそれどころではなかったので」





いつの間にかエレーナとアルベルトもグラムの傍に近付いてきていた。

もう周りの男たちを抑え込む必要がないと判断し、アルベルトの後に続いて警戒を解いている。





「で……ですが、そのメイという女性探してみたいと思います」





「だけど、アンタ。もしその人がベルっていう人だったとして……どうするのよ?また、人を傷つけたり薬とか売ったりとかして生きていくの?あんたのその行いで町の人々が苦しんで行くようなことを……続けていくの!?」




エレーナは、クリミオたちに自分たちがやってきた行いに対して攻める。

今までの話しで、クリミオたちが生きていくためにやったことだとしても、善良な人々たちの幸せを奪うことは許されるものではない。

そのことに対する責任を問う。




「「ク……くくく……はははははは!!!」」





「え?……なに?なんで笑うのよ!?」





クリミオに対しての問いかけに、周りの男たちは笑いを堪えきれず吹き出す。

エレーナはその行為が、馬鹿にされたと感じ一瞬にして氷の粒をこの空間の中に浮かび上がらせた。




「何がそんなに……可笑しいのかしら?私にも教えてもらえる??」



低く通るエレーナの声で、男たちの笑い声は止まった。

そして、男の一人がエレーナの問いかけに対して応えた。





「お姉さん……コイツ……クリミオってやつはそんなことが出来るやつじゃないんですよ」







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