4-62 作戦開始





襲撃を開始する夜、ステイビルたちはコージーの警備兵の訓練する広い場所に集まっていた。

コージーの私設警備兵が約二十人、グラムに賛同して集まった元警備兵が十名。



この人数を二つに分け、ソイランド内での奇襲を行っていく。


この場にはハルナ、ソフィーネとメイヤの姿はない。

襲撃開始時刻は早朝とし、一番無防備な時間帯に行うこととした。

そのため移動時間を考慮し、ハルナたちは既にソイランドを出て対象となる建物まで向かっていった。

今回は、コージーの使いとして王都に向かうという理由で荷台の荷物に隠れソイランドの町を出ていった。

勿論、その際には町を警備してもらっている日頃の感謝の気持ちを高級な酒として手渡した。





「皆の者、準備はいいか?今日はソイランドを我らの手に取り返す重要な日だ!だが、決してその命を落とすことのないように行動して欲しい!」



ここにいる大半はコージーの兵で、訓練以上の実践を経験したのは四分の一にも満たない。

しかし、反対に言えば相手も同じだった。


王国が建立されてから外部の敵から襲撃されることもなく、ソイランドにおいては二十年程前に前に起きた抗争が最後の争いだった。

今はその経験者はほとんど残っておらず、訓練上の戦闘技術訓しか経験がない者がほとんどだった。

だからこそ、そこにチャンスがあるとステイビルは考えていた。


それぞれ最終目標は、メリル、パイン、べラルドの身柄の確保。

そのためにステイビル直属の二人に切り込ませ、その後ろをコージーたちの兵で武力解除をさせ抑えていく。

これが、ソイランドの中における主な作戦だった。

一つ不安要素があるとすれば、べラルドがどこかに移動しているということだ。

そうなれば、三つに分けた主要戦力では足りない可能性も出てくる。

べラルドは武術に関しては、警備兵の頂点に立つ者としてそれなりの実力を有している。


王選参加者は問題はないと思うが、それ以外の者たちが傷付くことは裂けたい。

だが、いまはこの配分が一番最適だと考え、このまま実行することにした。




「……それでは、いくぞ!誰一人欠けることなく、戻ってくるように。行動開始!」




真夜中、大勢の足音がそれぞれの目的地に向かって進んでいく。

ステイビルはその姿に見送り、全員の無事を祈った。







「そろそろ、皆さん動き始めた頃ですかね」



「そうですね、夜明けまではあと数時間です。この時間帯が防御が薄くなる時間ですので、そろそろですね」



馬車を走らせる道は町から離れるにつれて、石から土……そして砂交じりの地面に変わってきた。

これにより馬車を引く馬の疲労が、そろそろ限界に達してくる。


「ハルナ様……そろそろ、馬車を降て歩くことになります。ご準備を」


メイヤの声にハルナは頷く。

ここから目的地までは、あと四分の三といったところにあるという。

馬車に布を被せ、草が茂る場所へ隠した。

ここから先は、草木も生えていない場所が多く隠せるところもない。

馬は馬車から外して放した、この場所に放置しておいた方が野生の狼などに襲われる可能性があるため、放しておくことにした。


「それではハルナさん、行きましょう……」



荷物はそれほどあるわけではない、自分たちの武器やいくつかの道具だけを持っていればよかった。

戦闘といってもさほど時間が掛かるような場所ではないことはメイヤから事前に聞いている。

優秀な諜報員と精霊使いがいれば、メリルの救出には問題はないという判断だ。




馬車を降りて、二時間ほどが経過しようとしている。

砂ぼこりを吹き上がる向きも左から右だった風が、右から左へと変わっていた。

月や星の位置、風の向きが変わるとともに空には雲がかかり始めた。

足元に映る月明りでできた影も、見えなくなる時間が長くなってきた。


メイヤとソフィーネだけであれば、既に目的の場所に到着をしていただろう。

ハルナは自分が足手まといとなっている気がしているが、そのことを口にするとソフィーネはハルナを叱るのだ。


ハルナはそのことを嬉しく思った。

ソフィーネはハルナのお願いを守ってくれていた……普通に接して欲しいという願いを。

当然、人前での行動はそれなりに侍従の関係を見せる必要もある。

そこはソフィーネが気を使って今までも、うまく使い分けてくれていた。


メイヤもそのソフィーネのハルナに対する態度には、”お好きにどうぞ”といっていた。

今のハルナを守る役目を任されているのはソフィーネだからだ。


ハルナが無理をして進もうとすると、速度を落としハルナの呼吸に合わせて速度を調整してくれる。

到着するまでに疲れてしまい、その身に危険なことが起きないために調整しているのだといった。

そのメイヤとソフィーネの心遣いを感謝しながら、ハルナは一歩一歩足首まで埋まりそうな砂の中を進んで行った。





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