4-58 拘束の理由








「私の名は……メリル。メリル・チェリーと言います。べラルドという男に捕まり、この場所に幽閉されています」



メイヤが探していた人物の一人、ステイビルに頼まれていた人物をこんな場所で見つけるとはなんて運がいいのだろうとメイヤは思い、念のために関連する情報を口にしてその真偽を確かめる。




「あなたは……もしかしてパインさんの?」



「パイン……母のことをご存じなのですか?母は今、どうしているのでしょうか?無事なのですか!?」




自分の母を心配する感じが、会話の先の人物がメリル本人である可能性を高めていく。

だが、それだけでは、本人と断定するにはまだ早い。

メイヤは、メリルと思われる人物から更に情報を引き出そうとした。




「……パインさんは無事です。それよりも、あなたは大丈夫なのですか?いま、どうしてここに?」


「それは……」




そこから、メリルは簡単にこれまで自分自身に起きたことをメイヤに話した。




王選が始まるとすぐにメリルはべラルドに呼び出され、馬車乗せられこの場所に幽閉されるようになったという。

最初は、王選の精霊使いに選ばれなかった罰だとべラルドは言っていた。

だが、次第にべラルドの本音が聞かれるようになる。


『責任を取り、私の妻になれ』……そう言ってべラルドはメリルに対して迫っていった。



”責任――”

その言葉の意味は、こういうことだった。



メリルが王選に選ばれるために、かなりの費用を投資したという。

パインが町の運営費を流用し、さらには不足分を町の中の協力者を集い資金を集めてメリルの活動費用として使用していたと言った。


……結果、王選の精霊使いはクリエに決定した。



今まで融資してきた協力者から返済を迫られ、パインは資金調達を融通したべラルドによってその返済と資金流用の問題を回避してもらっているという。


それらを綺麗に片付けるには、現大臣のチェリー家とソイランドの警備を請け負っているべラルドが婚姻関係になり、隠していく必要があると言った。

落ち着いて考えれば、その話自体が嘘である確率がかなり高い内容の話だが、この場所ではその真偽を確かめることはできなかった。

パインや父のグラムなら、”そんな言葉に惑わされるな!”と自分の正義を貫くことに賛成をしてくれるだろう。

だが、もしもその話しは何らかの仕組まれた理由でそれらが”本当”のことだとしたら……母の身に危険が迫る可能性も否定することもできない。



そこまで話したところで、メイルは一旦話しを止める。

そのタイミングでメイヤは、先ほどから気になっていることを聞いた。





「鎖で繋がれているような音がしているのですが……もしかして、拘束されているのですか?」


「はい……一度、ここから脱走しようとしました。ですが、それに失敗して……こうして鎖に」



(失敗?……精霊使いが?それほどまでに強敵がここにはにいるというのかしら……)




「どういう風に……その時の状況は覚えていますか?」




「……?えぇ、気を失ってしまったのですが、その直前までならば記憶はあります」




逃走を試みた場所は、同じくこの部屋から。

まだ、警戒もされておらず監視も緩やかだった。

その隙を狙って、メリルは精霊の力を使いこの場所からだ抜け出そうと試みた。

しかし、あと一歩のところでクラッシュアイスを嗅がされて眠らされてしまったのだった。



「そして目が覚めると、服をはがされ鎖につながれておりました」



「最後に……一つ。お身体は”大丈夫”ですか?」



メイヤが聞いたことは単純に身体の傷などを聞いたわけではない。

メリルは、そのことを察しメイヤに返答する。



「はい……何かをされたわけではなさそうです」



「それは何よりでした……ステイビル様もご安心なさるでしょう」




「あの……ステイビル王子はいま、ソイランドに?」



「はい、先日土の町に入られております……いろいろあったようですが」



「キャスメル王子も、その前に訪れていたと伺っています……ステイビル王子はキャスメル王子とお会いになられたのですか?」



「いいえ。ステイビル様がこの町に入られたときには既に、キャスメル様は出立されておりました」



「そうですか……よかった」




「それでは、私は一度町に戻ります。この状況を報告しなければなりませんので……」





「あ!」


メイヤがその場を立ち去ろうとしたその時、メイヤを呼び止める声がした。


「どうしました?何か……」




「あなたのお名前をお伺いしておりませんでした。どちらの方かお聞かせいただいても?」



「私の名は、メイヤ。……ただのメイドですわ」




そう告げて、メイヤは近いうちに再び来ることを約束しこの場を立ち去った。









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