4-44 グラムの記憶1







ここはユウタが住んでいた建物の中。

人工の雨の騒動によって、無事にグラムを連れ出すことに成功した。


数週間の間、全く身動きが取れず、食料も底を付きかけてきて生命の危険を感じ始めていたところだった。





「助かりました……ステイビル王子……まさかチェイルと繋がっていたとは……さすがです」




名前を呼ばれたチェイルは、ステイビルを前に正座をして縮こまっている。

チェイルはステイビルの正体を知らなかった、ハルナたちも名前で呼んでいたし最初に旅の者であると言われそのまま信じて続けていた。


グラムを助け出す際に精霊使いがいることを聞きいて驚きはしたが、王国内では旅の随伴者として雇われる精霊使いも珍しくは無い。

それに、一国の王子がこんな汚らしい場所に来ること自体が、チェイルには信じられない事実だった。

この町のあちら側に住む住民は、いろんな意味でこの場所を嫌っていたのだから。




グラム自身も、直接ステイビルと直接面会したことはない。

それもまだパインと一緒になる前に警備兵の研修で王都に行ったが、その時にはまだステイビルは生まれてはいなかった。

それでも自分のことを知っていたのは、パインが王宮にいる間に話をしてくれていたのだろうとグラムは推測した。


だが、今はそんなことを思い出しているときではなかった。






「……それで、どうしてあのような状態になっていたというのだ?」



「それでは、私が今まで見てきたことをお話ししましょう」





グラムは、目をつぶりゆっくりと自分が今まで見てきたことを語り始めた……






グラムは魔物襲撃騒動の後、兵を止めてこの町のことを調べて、まず初めにソイランドの更に南側にあるガラナコアの町の途中にある建物が怪しいことに気付いた。

そこにいる闇のギルドがこの町を乗っ取ろうとしている……そんな動きを掴んだ。

その場所では、”クラッシュアイス”と呼ばれるこの地域にしか生息していない花の花粉から薬物を違法に製造していた。





王国では、この粉は中毒性の高さから、国や町の許可がなく製造販売及び許可された場所以外での使用が出来ない。

ソイランドではその原料となる花の生息地が近いためか、どの主要の町よりも違反率が王国内では高かった。

現在の王であるグレイネス王の命により、その実態を調査すべく部隊が組まれた。

だが、その結果は怪しいところはなく原因不明という報告がなされていたことをグラムは思い出す。



グラムは姿を隠しながらこの場所を見張ると、ガラヌコアからクラッシュアイスが製造されソイランドに運ばれることを突き止めた。



しかし、これ以上のことはグラムにはどうする事もできなかった。

この件を報告するにも、その場所がソイランドの中にはない。

自分の信頼ができる協力者を集めた後でないと、この事実は大きな力によって握りつぶされてしまうことになる。




そのためグラムは、次の行動として仲間になってくれる協力者を探すことにした。



まずは魔物襲撃事件後に、一緒に退役した自分の配下だった者に声を掛けることにした。

自分の部下には、常日頃から正義について話して聞かせていた。

その者たちもグラムの持つ考えに、賛同してくれる者が多くいた。


またあの時と同じように自分の正義を貫こうとする者たちと、この状況を変えていこうと考えていた。




だが、その考えは、思った以上にグラムの一方的な甘い考えだと気付かされた。

賛同してくれる者もいたが、三十人中の半数以上が非協力的な返答だった。


そのお者な理由が、”これ以上面倒なことに関わりたくない”……だった。



拒否するだけなら、まだよかった。

隊の中で当時グラムに協力的だった者が、掌を返したような態度をとってくる者もいた。

そのうちの一人は、グラムに恨みの言葉を投げかけてきた。




「あんたが上に行くと思っていたから付いて行っていた!途中で辞めて俺の人生が狂った!!こんなことになるなら、あんたに付いて行かなければ良かった!!」




――と。




その男はそう吐き捨てた後、警備兵を呼びグラムのことを反逆者だと言って捕まえようとした。

グラムは、その言葉を引きずりながら廃墟の奥深くまで戻っていった。




その日からグラムは指名手配されることになり、声を掛けた誰かがグラムがやろうとしていることを話したのだろうと推測した。



そこから数日間、グラムは身を潜めてほとぼりが冷めるのを待った。

その間自分のやってきたことを振り返った……何もできない時間はグラムをより一層とネガティブな思考へと加速させていく。



(俺は……なんのために……誰のために……俺の今までの……人生は……一体……)





そんな時、町の中にある掲示板に新しい情報が張り出された。

それは闇の中に迷い込んでいたグラムの心に、希望の光を照らしてくれた。





『――次期ソイランドの大臣をパイン・チェリーに任命する』





そのことを知りグラムは喜んだ、王宮に出向き養育係としての働きが王から認められたのだと。

その次の思ったことは、”この町は正常になる”という希望だった。



グラムはパインと接触を試みるが、パインの姿や声を聞くところまでたどり着くことはできなかった。

なぜか、途中で必ず邪魔が入り、パイン自身がが自分を遠ざけているようにも感じた。



(パイン……どうして?メリルは……無事なのか?)




グラムは、自分の選択した正義が謝っているのではないかと不安になる。



ある日、大臣の就任パレードが行われることになった。

その馬車の上ではパインとメリルの後ろに見覚えのある男の姿が見えた。






「”べラルド・アブダル”――その男は、私の上官でもあった人物です」





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