4-31 偶然の合流







「あなた達……何をしてるのかしら?」




聞き覚えのない声がすると、ブンデルの身体が男の肩から落ちかける。

衝撃の痛みから守るために全身に力を込めるがすぐ別な力が加わり、背中が引き上げられてブンデルは地面に打ち付けられることを免れた。





「て、テメェ!?」





ブンデルの身体はフワッと宙に浮く、背中を掴まれてそのまま上に放り投げられたような感じだが、そこに乱暴は感じなかった。

子供をあやすかのように上空に向かって浮かび上がり、その感覚は背中にはまだ掴まれたままのような放られた安心感がある。

上昇中に、下からドサッという何かが倒れた音が聞こえる。

その数秒後、降下動作中に背中を再び捕まれ、着地した衝撃は助けてくれた者が制御し痛みなどはなかった。




そのまま地面に座らせるように置き、麻の袋の口紐を解いていく。

ブンデルは、暗闇の中に溶け込むかのような黒いローブを纏った人影を見る。

深く被ったローブでは、夜の暗闇の中でその顔を認識することはできなかった。




「何これ?……人身売買?」




ローブの奥から、女性の声でそう聞こえた。

次の瞬間、ブンデルは目を見開き塞がれた口から黒いローブを纏った人間に危険が迫っていることを必死に伝えようとした。

黒いローブを纏ったその人物はそれよりも早く反応し、地面に手を付き片足を軸にもう片方の脚で後ろに近付く相手の足を刈り払う。


足を払われた男はバランスを崩して横に倒れようとするが、その回転を利用し黒いローブの中から肘が倒れ込もうとした顔にカウンターで打ち込まれる。





「グ……ワっ!!!!」





その様子を見ていたブンデルは、相手の鼻はもう使い物にならないだろうと瞬間的に感じる。

視線をその奥に向けると、やや小さめな同じ麻の袋を肩に担ぐ男の姿が見えた。

その中にいる者の名を、言葉にならない言葉で叫んだ。


(サナああああああ!!!)





その気持ちを汲み取ってくれたのか、目の前の黒いローブを着た人物は一瞬にして建物の入り口にいた袋を担ぐもう一人の男と距離を詰める。




「――!!!」





その男は暗闇から飛び出してきたローブに驚き、手にしたランタンの手を離した。



――ガシャーン!



ランタンは地面に落ち、ガラスと火が移った燃料の油が飛び散る。

男の足元から火が吹き上がり、男の衣服にもかかった油に火が燃え移る。





「うわぁあぁああ!!!」





男は担いでいた袋を無造作に放り投げ、自分の服に付いた火を地面に擦り付けて消そうとした。





「ちょっと……荷物は大切に扱いなさい」





男は、側頭部を踏みつけられてそこから身動きが取れなくなった。

身体からは火が消えた衣服から焦げた臭いが昇ってくる。





「な!?何なんだ、お前は!?」





男は必死に体をよじらせ自分の顔を踏みつけている人物を確認しようとする。

が、踏みつけたものはそれを許してくれなかった。

そして、暗闇に慣れた目で馬車の方に移動させると、自分以外の男たちが冷たい地面に横たわっているのが見えた。



黒いローブを纏った人物は、フードを手でかき上げてその顔を見せた。





「さて……あなたたちは一体何をしようとしていたのか教えてくれる?」





メイヤは、足の下でもぞもぞと動く男に話しかけた。

踏まれている男はメイヤの足首に手を掛けようとしたが、足で顔を地面に擦りつけられその気力を奪われた。




「わ……わかった!何でも話す!!警備兵の詰め所でもどこでも連れて行ってくれ!!」





足元の男は、観念したようにメイヤにそう叫んだ。

メイヤは懐から、ロープを取り出し男の手を後ろで縛りその場所に放置しておいた。

そして小さな袋を担ぎ、ブンデルの傍に置いて口ひもを解いた。


中からは、ブンデルと同じように頬や額に殴打による痣がある女性のドワーフが姿を現した。

その姿を見たブンデルが、不自由な身体を乗り出してサナの方へ向かおうとしたがその場に倒れ込んだ。



必死さを見かねたメイヤは、ドワーフよりも先にエルフの身を自由にした。


ブンデルは手足が自由になると、自分で口にはめられていた布を乱暴に剥ぎ取った。

ずっと開かれていた顎関節は自由になり、急に閉じると痛みが生じる。

だが、それよりも心配するサナの元へ駆け寄った。




「さ、サナ!!大丈夫か!!しっかりしろ!!」



「ちょっと、落ち着きなさい。いま、手足を解きますから……」





メイヤのその言葉にブンデルは、必死に自分に落ち着くように言い聞かせ、メイヤがサナの自由を縛っている全ての拘束を解くのを待った。





「……サナ!」




ブンデルは自由になったばかりのサナを、助けてくれたメイヤから受け取り肩を抱いて呼び掛けた。





「う……うーん……ぶ……でる……さ」



「わかるか?……サナ、しっかりしろ!!」





さらに力を入れ、呼びかけようとしたブンデルの前に白い手が伸びてくる。

メイヤは落ち着きを無くしているブンデルの間に手を入れた。





「落ち着いて……もう大丈夫。警備兵に連絡をするので……」


「ダメだ!!」





ブンデルはメイヤの言葉を遮る。





「あいつらはこの町の警備兵と繋がっている!それよりもステイビルさんたちのところへ……!」



「ステイビル王子をご存じ?……あぁ、あなた達が」






メイヤはラヴィーネで聞いた情報を思い出し、ようやくハルナたちに追いついたと安心した。










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