4-14 次の目的地
「え?……これ、”肉じゃが”じゃない!?」
「ニク……ジャガー……?って、何それ?」
ハルナの驚きの声に、エレーナは名前を繰り返した。
「ハルナさん、これをご存じなのですか!?」
「これ、私の元いた世界の食べ物なんです……どこでこれを!!」
「ちょっ……ちょっと、ハルナ!落ち着きなさいよ!!」
ハルナの隣にいたエレーナが、ハルナを落ち着かせるようになだめる。
運んできたアイリスは、ハルナの勢いに驚いて少し引いている。
「わ、私にはわかりかねますので……あの、ブロードさんお呼びしてきましょうか?」
申し訳なさそうに答えるアイリスの姿を見て、委縮させてしまったと感じたハルナは何度もアイリスに謝った。
何度も謝られることに、アイリスは困惑しながらも一度後ろに下がりブロードを呼びに向かった。
「ハルナさん、どうかしましたか?……何か料理に問題でも!?」
ブロードは、先ほど見せていたものとは違った慌てた表情で部屋に入ってくる。
そしてハルナの目の前に置かれた、肉じゃがを見つけた。
「あ……美味しく……なかったです……か?」
ブロードは”失敗した”という表情を浮かべて、悔しそうに前に掛けていたエプロンを握りしめる。
「……言い訳かもしれませんが、以前料理を教えてくれていた師匠に食べさせてもらったものです。あの味を忘れられなくて、珍しい食べ物をハルナさんたちに食べてもらいたくて……ですが、最初に食べて感動したあの味が……どうしても作れなくって……そんなものをお出ししてしまい申し訳ありませんでした!!」
ブロードは深々と頭を下げて、ハルナに詫びた。
だが、ハルナは何で謝られているのかが理解できていなかった。
「あの……ブロードさん?」
優しい声だが怒られると思ったのか、ブロードは頭を下げたままハルナの呼びかけに応じる。
「何をそんなに謝られているのかわかりませんが……あの、ブロードさんにお聞きしたいことがあって」
自分が思っていたことと違う言葉に、ゆっくりと顔を上げて恐る恐るハルナの顔を見る。
「私に、聞きたいこと……ですか?」
ハルナようやくお互いが落ち着いて、質問をできる雰囲気を感じ取れた。
先ほどの話の中でもそのヒントが出ていたが、ハルナは当初から思い付いていた質問をブロードに投げかける。
「そうです……この”肉じゃが”、誰に教わったのですか!?」
「よくご存じですね……この”肉じゃが”という料理は、私に料理の指導をしてくれた方から教わったものです」
「それで、その方は今どちらに!?」
ハルナの食いつき気味な質問に、ブロードは少し引いてしまう。
そんなハルナの肩にエレーナが手をかけ、ハルナに落ち着くように伝える。
また焦ってしまったことを反省し落ち着きを取り戻し、ハルナは再びブロードにその人物の所在を問いかけた。
「その方は私の故郷、ソイランドにいらっしゃるはずです……ですが、ご高齢だったため今はどのようにされているか……いままでもこちらから連絡をしても返ってこなかったので」
「ソイランド……それで、その方のお名前は?」
「その方の名は……”ユウタ”様と言います」
「――!?」
その名を聞き、ハルナの息が止まる。
だが、ハルナの知るものかどうかは、現状では判らない。
それに、ブロードの話ではその人物は”高齢”であるということだったが、ハルナの知るユウタは向こうの世界ではハルナよりも十歳弱程度しか変わらないはずだった。
ブロード自身も年齢はハルナとそんなに変わりはなく、どちらかが上や下に見られたとしても不快感を覚えるような年齢差には見られることはない。
ブロードに料理を教えた”ユウタ”という人物は、”その”世代から見て高齢という認識だった。
そのため、そのユウタという人物はハルナが頭に思い描いている者ではない可能性もある。
その裏で、もう一人の人物のことを思い出す。
ハルナが憧れていた女性――”フユミ”のことを。
フユミが西側の王国の領地にあるマギーの宿屋で、傷付いた記憶喪失の状態で保護されていたのは、今からおよそ二十年程前の話だと言っていた。
ハルナがこの世界に来た時との時間差にどのような意味を持つのかはわからないが、その位の単位の時間差でこの世界に来
た時に生じたということも考えられなくもない。
この世界のことや元いた世界の考え等、様々な情報と知識がハルナの頭の中を高速で駆け巡る。
その姿を見たエレーナが、ハルナの思考に割り込んだ。
「……ね、ねぇ。ハルナ……大丈夫?」
「ん?……えぇ、ちょっと……でも、もう大丈夫」
深く沈みこんだ思考の沼から戻ってくるには、やや時間がかかったが今目の前の状況が情報として視界に入り現実に引き戻された。
「なんにせよ、いかなければならないのだよ……ソイランドにはな」
ステイビルの落ち着いた声に、一同は賛同するように頷いて見せる。
ハルナは食事が終るまでは一旦この問題は置いておき、今はせっかくの料理を堪能することに意識を集中させることにした。
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