3-281 モイスの加護
『……というわけで、東の王国は出来上がったのだ』
ナンブルも、東の王国が出来た時のことは覚えていた。
その時期などから考えても、モイスの話したことは間違いではないと告げた。
ただ、エルフは人間との交流も少なく、ナンブル自身はその時期ナイールの傍で付き添っていた時期でもあるため、出来たという以上のことは判っていなかった。
話しを聞き終えたステイビルは、情報を整理しているのか目をつぶったままうつむいてた。
「それじゃあ……もしかして西の王国って、エンテリアさんが創ったってこと!?」
『そうだ……ワシが与えた剣も、今は……別なものが持っておるようだが……』
「……シュクルス」
アルベルトは、ある一人の男の名を口にした。
『そうだ、その男が持っておる剣は、ワシが与えたものだ。仕えているところを見ると……何かお主の家とつながりがあるのかもしれんな』
「こんな長い時間が過ぎておりますし、各家のつながりがあるでしょうから。不思議ではないかもしれませんね」
「それで、もう一つの盾はいま王国の中にあるのですか?」
「それは国王が厳重に管理しているはず、水晶も聞いたことはないのですが……どこかにあるんでしょうね」
『――そのとおり』
ステイビルに聞かれたモイスは、自信をもって答えた。
「……それで。これからどうするのですか?」
ブンデルは、頭の後ろで手を組みながらステイビルに問いかける。
「そう……だな。とにかく我々のやること、目指すことは変わらない」
そういって、ブランビートはモイスの方へ意識を向けて改めて依頼する。
「モイス様、我々にあなた様の加護を授かりたい。何卒……」
ブランビートは片膝を付き、胸に手を当て忠誠を誓うように礼をする。
エレーナとアルベルトもそれに合わせて膝を付き、ソフィーネはハルナに同じ行動をとるように合図をしてハルナの後にソフィーネも続いた。
二人のエルフとドワーフも、同じようにモイスに向かい片足を跪いた。
モイスは少し照れた様子で、その様子を見つめる。
他の竜神の中には自身の力を見せつけようとする者もいるが、モイス自身はそういう行動が苦手だった。
少しむず痒く感じながらも、モイスは自分に向かって跪く者たちに告げる。
『よかろう……お主たちのその声を聞き届けようぞ。ワシの力を受け取るがいい……!』
モイスは背に付いた羽を広げ、二振り程羽ばたかせた。
そこから濃い蒼い水の粒が降り注いでいき、目の前の者たちにモイスの恵みが降り注ぐ。
その”恵み”は皮膚にしみこんでいき、淡い光に包まれていく。
……ただ一人を除いて
「あれ?ハルナ……あなた、何ともないの!?」
「う……うん。何も起きないの……」
他の者の身体が輝く中、ハルナだけが何の反応を見せていなかった。
「モイス様……これは?」
心配になったステイビルがモイスに問いかけた。
更にステイビルの頭の中に浮かんだのは、王選の規定からハルナだけが外れてしまうのではないかという思いがあった。
『うぅ……む。良く分からんが、ハルナにはワシの能力が移譲できない様だの』
モイス自身も、ハルナに何が起きているのかが判らない様子だった。
「そ……それでは、ハルナはモイス様の加護を受けることができない……と!?」
王選自体は、ステイビルが全ての神の加護を受ければ問題はないだろう。
だが、それに付いて回る精霊使い達が受けられなかった場合はどうなるのか?
過去に、そういった事例は聞いたことがない。
……もしかすると、事例がないのではなくそういう場合は記録にも残らない結果となっているのではないかと推測した。
(共に旅する英霊使いが加護を受けることができないとなれば……ハルナは、この王選に参加する資格を失ってしまうのではないか!?)
ステイビルは自分の頭の横を数回拳で打ち付け、浮かんでしまった一番悪い結果を頭の中から叩き出した。
今までに例にないこの状況をどう捉えるべきか……”ハルナだけ”というマイナスな状況は、今後への判断の中で優位に働くとは考えにくい。
この不利な状況をどうすれば、優位に……最低でも何もない状況まで持っていけるか。
ステイビルは持てる知識をフル回転させ、状況を好転させる案を練る。
しかし、行く通りの浮かんだ案も最終的には望まない結論へと達してしまう。
(くそっ……どうすれば!?)
ステイビルは、髪の毛を乱しながら解決を導き出せない自分の頭を悔やんだ。
「モイスさん……お聞きしたいことがあるんですけど」
『ん?……どうした、ハルナよ』
「モイス様の加護……これはどういったものなのでしょうか?」
『そうか……ワシが与える加護は、”生命力の強化”だ。この力により、お前たちの生命力が上昇する……傷付いても、耐えられることができるというわけだな』
「それって……HP値の上昇の効果があるんじゃ?」
「”えいち・ぴー”?ハルナ、何それ??」
エレーナはハルナが、自分の知らない意味不明な言葉を使うことに不思議な顔で見つめる。
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