3-266 東の王国70





ウェイラブが村長の座から退き、二か月が過ぎた。

その間に、決定権などの全てをエンテリアとブランビートに委譲した。


これについては、エンテリアたちがスミカのところに滞在している間にウェイラブが根回しをしていたため、問題なく事が進んで行った。

そして、その補佐としてノービスが付くことも承認された。

細かいことは、エンテリアとブランビートが帰ってから決めていくとのこととしていたため、この二か月の間でずっと村の政策の対応に追われていた。




その怒涛のような忙しさもようやく落ち着いた頃、二人はウェイラブに呼ばれた。

村長の座を譲ると同時に、執務室も二人に明け渡していた。

そのためウェイラブるは今、簡素な部屋を与えられ一日の大半をそこで過ごしていた。



――コンコン



エンテリアが扉を叩くと、中から入室を許可するウェイラブの声が聞こえてきた。

その声に従い、二人はドアを開けた入る。


そこには、ソファーに腰掛けたウェイラブの後ろに立つマリアリスの姿も見えた。


本来マリアリスのメイドとしての仕事は、村長についてサポートをしていく役目ではある。

がしかし、マリアリスが姉弟と知ってから侍従の関係はやりづらく感じていた。

そのため、マリアリスにはウェイラブの傍についてもらうようにお願いをしていた。



マリアリスはそれを、命令という形で受け取りその任務を果たすと言ってくれた。

そして、今もこうしてウェイラブの傍で手伝いをしていた。




集まった二人に声をかけて、ウェイラブはローテーブルを挟んだ前のソファに腰掛けるように指示した。

ウェイラブの声に応じて、エンテリアとブランビートはソファーに腰を沈めた。


マリアリスは、二人の前に紅茶の入ったカップを置いて行く。

立ち上る蒸気に乗って、紅茶の良い香りがブランビートの嗅覚を刺激した。



「それで……今回はどのようなご用件で?ウェイ……いえ、お父様」




エンテリアは、未だに名前で呼んでしまいそうになる。

ウェイラブ自身は気にせず、徐々に父親と認識してくれればいいと考えていたが、二人は何とか必死に変えようと努力をしていた。

その努力が嬉しい反面、もう少し気楽に親子関係を構築していってもいいのではと悲しさも感じていた。



ウェイラブは、気を取り直してここに集まってもらった要件を告げた。




「……私はそろそろ村を出て、スミカの傍に行こうと思う。お前たちももう、村の者たちはいうことを聞くだろう。あとはお前たちの理想に向かって、皆を導いてやればいい」



さらにウェイラブは、レビュアも一緒に連れて行くと言った。

レビュアはあの日からずっと、ベットの上で何の感情を持たない植物のような人間になってしまった。

飲食や排泄の欲は見られるが、ほぼ全ての動作はメイド達が行ってくれていた。


そんなレビュアをこの村に残すことも出来ないということや、レビュアの父親として面倒を見てあげたいとウェイラブは告げた。

それに、一刻も早くスミカの顔が見たくてたまらなかったのだ。




「私も一緒に連れて行ってもらえませんか?」




そうお願いしたのは、マリアリスだった。

だが、ウェイラブはそれを制した。




「マリアリス……お前はまだこの村に居なくてはならない存在だ。二人のために力を貸してあげて欲しい」




マリアリスは、実の姉弟との関係を知らない頃からエンテリアとブランビートの世話をしてきた。

それはメイドとしての仕事ではあったが、それ以上の愛情を注ぎ二人の面倒をよく見ていた。



そんな二人を知るマリアリスだからこそ、これから二人が成していく大きな夢を形にするためにマリアリスの手助けが必要だとウェイラブは説明した。

その理由にマリアリスは、納得をし、二人を助けることを”命令”として心に刻んだ。






その二日後、ウェイラブはレビュアを連れてスミカの元へ向かっていった。

送り届けて帰るまでの約束で、マリアリスも馬車で同行することにした。




「それではこ、の村を頼んだぞ。エンテリア、ブランビートよ。また落ち着いたら顔を見せに来るがいい……エイミさん、セイラさん。二人をどうかよろしくお願いします。ノービスにもよろしくお伝え下さい」






「わかりました、がんばります!」


「ウェイラブ様も、道中お気をつけて」



その答えに満足したウェイラブは、馬車の窓から手を差し出してエイミとセイラに握手をした。




「それでは、また会おうぞ!」



ウェイラブは御者に合図をして、馬車をゆっくりと走らせた。




いよいよ、建国に向けての活動が始まる。

今はまだ村長の屋敷で仕事をしているが、いつかはもっと大きな”城”という建物を建て防衛面や様々な王国関係者が集まりその中で国を守っていく体制を作っていくことになる。



ウェイラブが使っていた執務室に大竜神から授かったとされる剣と盾を壁に掛けて飾り、国の象徴として扱っていこうと決めた。




その横には、エイミとセイラも一緒に手伝いをしてた。

それは、エイミのある一言から始まった。



「水晶も……飾ってみてらどうかしらね?」






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