3-255 東の王国59
ウェイラブの口から語られた真実に、一同は言葉を失う。
中でも、 一番困惑しているのはマリアリスだった。
いないと思っていた母親が存在していたこと、仕えていた主が実の父親だったこと、守っていた者たちが家族だったこと。
足の力が抜けていく、そんな感覚のなか身体を支えることと状況の変化への対応がマリアリスの中で同時に起きていた。
「お前たち……特にマリアリスよ、今まですまなかった。許されることはないことは判っている、お前たちの罰を受け入れる覚悟は出来ている」
ウェイラブはそういって、三人の我が子の顔を順に見ていく。
ノービスもここでは口を挟むことはできない、兄弟ではあるが今回は村を出てからの話だった。
それに村を出た理由が、自分からウェイラブのやり方に反対して取った行動だった。
その後、ここまで一人で立て直したその苦労は自分の比ではない。
(もし、エイミとセイラに同じ境遇にさせていたら……)
そう考えると、ウェイラブの”親”としての気持ちが痛いほど伝わってくる。
ノービスは自分たちの責任を感じつつ、どうすることも出来ないこの状況にやるせないやり場のない感情が胸を締め付けて苦しめる。
「お……父……様」
口から零れるようにそう告げたのはマリアリス、その視線は宙の一点だけを見つめていた。
そう呼ばれたウェイラブは声に出して返事をせず、村長よりも娘を見守る父親の表情を向けた。
「お……様、……父……、お……様」
その言葉を、まるで練習するかのように何度も口の中で繰り返し、擦れた言葉を音にする。
「マリアリス……」
心配になり、ウェイラブは仕事では呼び慣れていたが、初めて娘に対する名前をを口にする。
「様……お父様、お父様、お父様、お父様、お父様、お父様、お父様、お父様、お父様、お父様、お父様、お父様、お父様、お父様、お父様、お父様、お父様、お父様、お父様、お父様、お父様、お父様、お父様」
「ま……マリーさん、大丈夫ですか!?」
虚ろな目で同じ言葉を何度も口にするマリアリスを見て、セイラも心配になりマリアリスに声を掛けた。
するとマリアリスは頭の毛を掻き毟り、繰り返し口にしていた言葉は聞き取れない程の狂気の叫びに変わっていった。
「マリーさん!?」
その姿を見てエイミがマリアリスの行動を止めようとした時、エイミよりも早くその姿に近付くものがいた。
暴れるマリアリスの拳や肘が、止めに入ったウェイラブの身体を痛めつける。
それでもウェイラブは必死にマリアリスの身体に手を回し、その動きを止めようとした。
「すまない……マリアリス!……すまない……!」
叫ぶマリアリスの耳元に、何度も何度も謝罪の言葉を投げかける。
顔の一部は打撃によって赤く腫れ、額からは皮膚が切れて一筋の血が流れている。
ウェイラブは、完全にマリアリスの身体を腕の中で封じ込め、力いっぱいマリアリスを抱き締めた。
次第に落ち着きを取り戻すマリアリスの声は、涙に変り嗚咽で身体が震えていた。
そんなマリアリスをウェイラブは抱きしめた力を少し緩め、マリアリスの頭を何度も撫でている。
マリアリスも、暴れることを止めウェイラブの胸の中で思い切り今までの想いをぶつけるために泣いた。
泣きつかれた子供のように、マリアリスはウェイラブの腕の中で眠ってしまう。
そして近くのソファーまで抱きかかえ、マリアリスを横にして休ませた。
「さて、お前たち……今の話を聞いてどうだった?」
ウェイラブは切れた頭の箇所を、セイラが精霊の力で用意してくれた冷たい水の布を当てながら双子の息子に問いかけた。
二人にとっては、ウェイラブは上司であり父親のような存在だった。
だが、その間には冷たい板が何枚も重なって本当の愛情には触れることができなかった。
それは、自分たちが本当の親子ではないと覚え込まされていたからだった。
クリスという母親も慕ってはいたが、存分に甘えることなどできなかった。
それがいま、父親は”本当の父親”であると言われてもマリアリスとは若干状況が異なるが、同様に頭の中の情報整理が追いついていない。
ウェイラブはそんな状況を察してか、質問の内容を変えてみた。
「そうか、では質問を変えよう……お前たち、なぜ”建国”をしようと思った?それは、自分たちの案なのか?」
そう問われたことに対し、エンテリアが応じた。
「はい……これは我々で考えたもの……と言いたいところなのですが、既に頭の中にこのアイデアがあり、それを起こして二人で検討した結果です。ですが、何故このアイデアが頭の中にあったのかがわかりません、本で読んだのか……誰かに聞かされたものなのか……思い出せないのです」
その言葉を聞き、ウェイラブは大声で笑った。
周りの者たちはその反応に驚き、ノービスが代表してその理由を聞いた。
「ウェイラブ……どうした?何がそんなにおかしい?」
ノービスからそう言われ、ウェイラブは内から湧き上がる楽しい感情を抑えつけた。
「いや……すまん。やはりお前たちは、”私の子”だということが嬉しくてな」
エンテリアもブランビートも、その”答え”がどこにつながるのか全く見当がつかなかった。
「……その建国のアイデアは、お前たちがまだ小さい頃にクリスに対して聞かせたものだ」
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