3-243 東の王国47







「それでは、村長をお呼びしてまいりますのでお待ちください」




若いメイドに連れられて、ノービスはこの村の村長の部屋に通される。

そのしぐさは、まだ慣れていない様子ではあったが自分が教わったものを全て出し切るかのようにノービスの対応をしていた。



そんな者に、村長クラスの人物を対応させることに違和感を感じる。

ベテランのメイドがでてこれない理由が何かある、もしくは自分の対応はこの程度のもので問題ないと思われているかのどちらか。



若いメイドは、ノービスの前にお茶を淹れて差し出す。

緊張からか皿とカップが小刻みに震え、カチカチと音が鳴って今にも中のものが零れそうになっている。



差し出された紅茶の香りを嗅ぎ、一つ口に含んで味も香りも問題がないことを確認し、そのことを心配そうに見つめる女性に感想を伝えた。



「うん、美味しいお茶だ。ありがとう」




そう告げると最初は驚いた表情を見せたが、次第に耳と頬が赤く染まり目が真っ赤になっていく。

そして嬉しそうに、一つお辞儀をしてその言葉を掛けてくれた感謝の気持ちを表した。







――カチャ




突然扉が開き、この屋敷の主がその姿を見せた。


ノービスは、若いメイドの表情が一瞬にして凍ったように変わるのを見た。

そして、客席の前に置かれた自分の机の椅子を引き腰掛けてゆっくりと腰を下ろす。


メイドに対して手を振り払って退室するように指示をすると、その村長に先ほどとは違う感情を含んでいないお辞儀をして退室した。





この部屋には二人だけとなり、お互いがそれぞれの顔を見たまま何も言葉を交わさず時間だけが過ぎていく。



このままでは埒が明かないと、ノービスが口を開きかけたその時……相手が声をかけてきた。





「元気だったか……ノービス」





そう声をかけられたノービスは、言葉にできなかった息を一度吐いてその問いかけに応えた。






「あぁ……ごらんの通り元気さ、ウェイラブ」




ノービスは両手を広げて、問題ないことをアピールした。





二人は仲の良い感じで、言葉を交わす。

だが、そこにはいまだに気が張り詰めた空気が二人の間に漂っている。







「……やつれたな」



「まぁな。忙しいから仕方がない」





確かに忙しいのだろう……昔から一人で問題を抱え込み、全て自分の力だけで解決しようとしていた。

村長になってからも、その方針でこの村の運営を行ってきた。

ここまで発展をさせてみせたのは、ウェイラブの指導力や知識の成果であることは疑いようがない。


自分にはできない手法でここまで村を大きくさせていた、そんなウェイラブをノービスは昔のように誇りに思う。

だが、その代償ともいえる身体の状態が良くないことは、久しぶりに見てもすぐにわかることだった。

それは本人が望んで行ったことであるため、”そのやり方はおかしい”などと言えるはずがない。



その気持ちを取りあえずは抑えて、本題に向けて話を続ける。




「……それで、娘たちから手紙をもらったんだ。以前言っていた”建国”についての話で。それにしても、あの子たちはすごいな、エンテリアとブランビートは。それにいつの間に結婚していたんだ?知らなかっ……ウェイラブ!?」





話しの途中で、ウェイラブは胸を強く握りしめて苦しんでいる。

その顔は真っ赤になり、次第に赤黒く変化していく。




ノービスは近くに駆け寄り、倒れ掛かった身体を起こしゆっくりと床にその身体を横にさせた。

そして、外に待機していると思われるメイドを呼び二人で村長の寝室に運んだ。



















「訓練場……メイドさんの?」




エイミとセイラを取り囲むように十数名のメイドが、二人を威圧するように現れた。

二人は異様なまでの雰囲気に飲まれないように、二人で身体を寄せ合って襲撃に備えた。


異常な殺気を感じ精霊が二人を守ろうと飛び出そうとしたが、それを抑えてまずは様子を見させるようにした。





「もしかして……マリーさん。私たちのこと、警戒していたのですか?」




セイラは残念そうに、マリアリスに問いかける。

世話をしてもらっていた数日間、二人はマリアリスに好意を抱いていた。

自分達たちよりも年上で、本当のお姉さんのようにも思えてしまう程だった。


すぐに人を信用しては行けないと親友のサミュが言ったことを思い出すが、今までそんな状況にならなかったのは運が良かったということなのだろうか。

そんな思いが二人を取り囲む殺気の中で、二人の胸を苦しめていた。





「……どうやら、話し合いは出来そうにないですね」




そこから言葉を交わしてもらえないことから、力でぶつかり合うことしか解決できないと悟った。


セイラは一歩前に出て、目の前のメイド達を相手にしようとした。

しかし、その腕をエイミが掴んで歩みを止めた。



「な……」


”ぜ”と言い切る前に、セイラは息を呑んだ。

こんなエイミの表情は見たことがない……いや、自分もエイミの姿を見るまでは同じ気迫だったのだろう。

その顔は、”ここは私に任せて”といった表情だった。


セイミは目を閉じて、一回ゆっくりと深く呼吸をして貯めていた気合を息に乗せて吐いてエイミの後ろに下がる。





「あなた達の相手は私一人で十分です……いくわよ」




そういうとエイミは両手を前に出し、大きな竜巻を作り出した。








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