3-241 東の王国45






二人は村の端まで歩いて来ていた、警備兵に誘導されている道も自分たちではどこをどのように通ってきたか既に判らなくなっていた。



ようやくエイミたちは、滞在していた家に戻ってきた。

メイドのマリアリスは二人を出迎え、遅い帰りを心配していたと告げる。

渡していたリボンではどうにもできない事態になっていたのではないかと思っていたのだ。

それに関しては後で説明すると伝え、エイミは借りていたリボンをポケットからとりだし手渡した。



マリアリスは返してもらったリボンがボロボロになっていたことを詫びてくるエイミたちに二人が無事であれば問題ないと告げ、極限の空腹状態となっている二人を食堂へと案内した。




二人は食事を終え、マリアリスは目の前の空になった皿を下げていく。

そして、食後の紅茶を淹れつつ二人に何が起きたのかを確認した。


問いかけに対して、二人は起きた出来事の全てを説明した。

警備兵には必要なことしか伝えていなかったが、マリアリスに対しては情報を選ぶことなくすべてを伝えていた。





「……そんなことが起きていたのですね。でも、お二人がご無事で何よりでした」




マリアリスは、最近この村で起きていた出来事について話をしてくれた。



「この村の周辺で、山賊がこの村に出入りしている者たちを襲って荒らしている事件が多発していました。死者も出ていたため、事態を重く見た村長は周囲の警戒と山賊のアジトの捜索を命じていました……」




さらにマリアリスの話では、捜索をするも周囲には山賊たちの気配はなくアジトとなる場所も見つからなかった。

しかし、被害をうけることは少なくはなったが、全くなくなるということはなかった。


今回掴まえた男たちは、その山賊だったという。

どうやら村の中で見つからない様に隠れていたとのことだった。

警備兵からの報告でその話を聞いたマリアリスは、二人に何かを持っているものを感じていた。

精霊の力だけでなく、運命にも似たこの世界の中における重要な人物ではないかと。


この感情は、マリアリスの中だけに留めておいた。



「……というわけでして、お二人の功績に警備兵は感謝をしたいと申しておりましたわ」




その言葉を聞き、エイミたちは両手を振って否定する。





「いえ、感謝なんて!私たちは勝手に村を歩き回ってただけですし……」


「そうです。ただ、うろちょろと危険な場所に入り込んで絡まれてきただけなんですよ」




「それでも、お二人はこの村の問題を解決していただいたのです。これは充分に賞賛されるに値する結果でございます」




マリアリスの言葉に二人は、顔を見合わせて照れ笑いをした。

食後落ち着いた後、浴場で汗を流すことを提案されエイミたちは喜んでその提案を受け入れた。













――コンコン



中から入室を許可する声を確認して、マリアリスは扉をあけて入る。

後ろを振り向き扉を両手で絞めたあと、下腹部の前で手を重ねてゆっくりとお辞儀をする。

頭を上げると、村長まだ手元の用紙に何かを書き込んでいる途中だった。





「お呼びでございますか?村長……」




マリアリスは、呼ばれた主の手元を見て声を掛けるタイミングを見計らっていた。

その声に、反応をして仕事の途中で手を止め羽の付いたペンを置いた。

そして、イスの背もたれに寄りかかり机の上で両手を組んで、ここで呼び出したメイドの姿を初めて見る。




「あぁ……何やら”あの”二人が騒ぎを起こしたと聞いたのだが、あの者たちから聞いているか?」


「はい、既に調査は終えております。警備兵の者からも話を聞き、捕まえた者たちとの内容とも一致しております」


「そうか……捕まえた者たちからも聞き出したのか?」


「最初は素直ではありませんでしたが、根気強く”お願い”をしましたところ聞き出すことに成功しました」


「……殺してはいないな?」


「はい……村長のお申しつけは守っておりますよ」



その言葉に浮かべた表情は、背筋が凍るようなエイミたちに見せたことのない冷たい笑顔を浮かべていた。

村長はその表情に違和感や恐怖を感じることなく、楽しそうに思い出すメイドの姿を見ていた。




「では、引き続き二人の情報を集めておいてくれ。何かあれば、また報告するのだ……いいな?」


「畏まりました……」



マリアリスの顔からは冷笑が消え、いつもの冷静沈着なメイドの表情に戻っていった。









その夜、マリアリスはエイミとセイラにお願いをして精霊の力について教えてもらうことにした。




二人が持つ精霊の力はつずつ、エイミは土と風セイラは火と水の力。

そしてその力を発動するには精霊との契約が必要であるということを説明した。






「……ではこの精霊たちも、その力を使えるのですか?」



「はい、そうです。精霊は私たちの意識とは別に、それぞれの精霊の力を使うことも出来ますね」



その事実を聞き、マリアリスの顔が少しだけ曇った。

何かを考えているのか、ほんの一秒強ほど沈黙が生まれた。





「……マリーさん?」




心配になり、セイラが声を掛ける。




「え?すみません、少し考え事をしていて……それで、その力私にも見せてくれませんか?」



その依頼を承諾し、明日時間を作って精霊の力を実際に見せてもらうことにした。

午前中はメイドとしての仕事が忙しいとのことで、明日の昼食後に見せてもらうことを約束した。








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