3-237 東の王国41







「ねぇ、お父様に相談してみるっていうのは……どう?」




「え?相談してどうするの?」



「考えてごらんなさいよ、セイラ。私たちが”万が一”にもエンテリアさんたちとお付き合いすることになったとしても、やっぱりその許可は父親がするものじゃない?それに一緒になるならないにしても建国に対しては協力はするつもりだったし、その辺りを含めて判断してもらった方がいいと思うの……」



と言いつつ、自分たちだけじゃなくて父親も巻き込んでしまおうという気持ちがあることも伝えた。

エンテリアもブランビートも”万が一のお付き合い”のところで、妄想の中にどっぷりと浸っていた。

その時間は脳内で高速に処理され、現実には一瞬だったが本人たちには長く幸福な時を感じていた。





「なるほどね……」



その提案にセイラは納得し、早速行動に移すことにした。




だが、エイミの本音はどうしていいか分からず親の意見に頼りたいという気持ちがあったのだった。

それは、自分たちの未来もあるが、村の中で村人も家族も全てをよい方向へと導くことができるのは村長である父親だという気持ちがあったから。


エンテリアとブランビートはその提案に反対することもなく、エイミたちの決定に従うことにした。







エイミとセイラは用意してもらった紙に今の状況と、困っていることを記していく。

そして、最後に”知恵を貸してもらいたい”と記し、手紙の最後を締めくくった。




「……これでよしっと」



溶けた蝋の上に指を当てて、蝋に自分の指紋を付ける。

これ自体が証明となるわけではないが、中の文字でエイミと判断されることだろう。

まだこの時代では文字の習得率はそんなに多いわけではない。

村の中だけでは、言葉で話した方が早いから覚える必要はないと思う村民が多かった。




手紙は、エンテリアの知人で信用のおける者に手渡され、エイミたちの村まで送り届けてくれることになった。

この村では移動専門の馬も飼育されていた。


エイミたちの村での馬は、農耕用としての飼育が主で台車を付けて荷物の運搬や人が乗ったとしても運搬や農耕の方向指示のために乗る程度だった。


その馬は村で見るけん引する力を発揮するための体つきではなく、速さや長距離を走るためだけに必要な筋肉が付いている体つきであった。




持っていってくれる方の話では、明日の朝いちばんに出発し何度か休憩をしても昼頃には到着できるとのことだった。

その返事すぐに持って帰ることができれば、明日の夜には戻ってくることができるという。




翌朝、一頭の馬に乗った男が村を出ていく姿を目にした。












――コンコン



「はーい」



合図をした部屋の中から、緊張感のない気の抜けるような声がしてメイドが扉を開いた。





「エイミ様、セイラ様……おはようございます。朝食の支度が整い……そ、それは?」





メイドは初めて目にした、四つの人型の生物が宙に浮いているのを目にした。




「あ、これ……ですか?」



「私たちの精霊なんです……大丈夫です、ちゃんと言うことを聞いてくれる子たちですから」






ずっと冷静に仕事をこなしているメイドにわずかながら驚きの表情が見えたことに不安を感じるエイミ。



精霊たちは、自分たちが”これ”呼ばわりされたことに対して『ひっどーい!』『なんで名前で呼んでくれないの!!』など好き勝手なことをエイミに対して愚痴っていた。

それだけ二人が、精霊たちと仲が良い証拠でもあった。




メイドは、その二人の言葉が耳には聞こえていたが頭に届くまでに通常の何倍もの時間がかかっていた。

そしてようやくセイラの説明が頭で理解できたところで、驚きで止まっていた呼吸を再開させる。





「申し訳ございませんでした……初めての経験でしたので少々困惑しておりました」



「いえ、こちらこそ申し訳ありませんでした。最初にお伝えしておくべきでしたね」





メイドはエンテリアたちの報告を村長から聞いており、”精霊の力を扱う者である”と聞いていた。

だが、その様子は普通で(成人した女性には失礼だが――)可愛らしい双子の女性だった。

よって最初の印象は”こんな方が……?”という感想だった。



しかし妹のレビュアの敵の討伐の際に、彼女らの力が無くては成し得ることができなかった……それどころか、二人の精霊の力がなければエンテリアたちの身も危険にされされていたという程の実力を持った女性たち。




メイドは一度手合わせをお願いできないかと考えていた。

もしこの話がうまく纏まり、この村……できた国を任せることのできる実力の持ち主なのか。



この村は基本的に、武力が長けている者が重宝されていた。

このメイドも村長の家を預かるだけあって、それなりの実力者だった。

その機会を探ってはいるが、中々それが訪れることはなかった。




『『ぐぅぅぅぅ……』』





二人のお腹から、空腹の音が鳴り響く。

こんな時でも仲の良い、息の合った双子だった。






「さぁ、食事のご用意は出来ております……支度が整いましたらどうぞ」




その顔には、少し笑顔が見られた。

少しずつメイドの中に、この二人に対する警戒感が薄れていくのを感じていた。




(……不思議なお方ね)





メイドはそう思い、用意ができたという二人を食事の場所まで案内していく。








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