3-211 東の王国15









そして、ようやく父親からの謹慎が解け、村の仕事を手伝うようになった。

その間、二人はあの火事で子供を助けた時に怪我をして絶対安静の状態だと見舞いも断っていた。







久しぶりに、川の水くみ場で姿を見せた二人に、歳が近い友達が二人の無事を喜んでくれた。






「エイミ!セイラ!無事だったのね!!……随分と大変だったって聞いたけど、大丈夫?」







二人は嘘をついていることを申し訳なく思ったが、村の安寧のために心の中で謝りつつその言葉に返答をする。




「うん……もう平気!私たちの分までやってくれてたんだって?ありがとうね、今度代わりに私たちがあなたの分を……」




変ろうとするエイミの言葉に目の前の女性は手を振って制する。







「いいのいいの!困ったときはお互い様だし、あなた達は大きな仕事したんだから……それに村長の娘だからね」





「もう、サミュ。友達なんだから、それは言わないって約束でしょ!?」





エイミとセイラとその友人であるサミュは、川で組んだ水を桶に入れ各家に注いで回る。

これは村中で当番制で行っている仕事のうちの一つ。




三人は笑い合いおしゃべりをしながら、仕事を続けていく。

一度目の水汲みが終わり、三人は肩に水の入った桶を担ぎながら村まで戻ろうとした。


その時真剣な顔をして、サミュが二人に話しかける。



「ねぇ、エイミセイラ」




「ん?」


「どうしたの?」




その表情に何かを感じた二人は、真剣な表情で友人の顔を見る。





「村長の座を狙っている人たちが、アナタたちの悪い噂を流そうとしているのを聞いたのよ」




「悪い……噂?」





セイラの言葉にサミュは、周りを警戒しその内容を告げる。




「今回の火事、あなた達がやったんじゃないかってことになってるのよ」




「「えぇ、なんで私たちが!?」」




「私が聞いたところによるとね……」





サミュは、二人に届いていなかった噂話を話して聞かせる。







話しによると、火災は二人が仕組んだものだという内容だった。

その理由としては、あの火災の中で助かるはずがない子供を無傷で助けることができたということ。

しかもその時に吹いた突風による被害も最小限で済んだことは、何らかの準備をしていた可能性が高いという。


その裏にあるのは、現村長の地位の保持と自分たち以外の者が財を膨らませようとすることを阻止しようとしたのがその理由だった。



火事のあった家は、最近商人との取引が上手くいき資産が増えていた。

長い間できなかった子供も生まれ、順調に育ちようやくいい風が吹いてきていた。



村長もそのことを喜んではいたが、裏では自分の地位が脅かされるのではないかと今回の火災を起こしていると根拠や証拠のない噂を流している者がいた。













「そ……そんな。私たち……あの時……必死に……」





エイミは震えながら、今にも泣きそうな声でその噂に対して反論をしようとする。


だが、いろんな気持ちが溢れ出てきて言葉として繋がっていかなかった。




サミュは担いでいた桶を地面に置いて、エイミの両肩に手を置いた。

そしてセイラの顔を見ると、エイミと同じような気持になったのだろう。

その目は赤く、涙がいまにも零れ落ちそうだった。





「私は判っているわ……エイミ、セイラ。あなた達がそんな人間ではないことは、いままでずっと一緒にいた私が知っているわ!」






「ありがとう……サミュ」



「ごめんね、弱いところを見せてしまって……こんなことじゃその人たちに立ち向かえないわね」





二人は、エプロンで涙を拭いて笑顔でサミュの優しさに返した。





「いいのよ。私も何かあったら協力するし、その人たちが誰か分かればとっちめてやるから!!」





「待って、サミュ。あなたは危険なことをしなくていいのよ、決してむりはしないで」



「そうよ、私たちのことであなたが傷付いてしまうことになったら……私……」





二人は、本気でサミュのことを心配した。

今は噂話で、村長の評判を落としているだけかもしれないが、いつか実力行使で来ることもあるかもしれない。


その時に、自分たちの味方をしてくれた人が傷付くのはふたりにとって耐えられない。



二人はそんな人々を守れる力を手にしているのだから……






だが、今はそのことを言う時期ではないと判断した。


その異能の力が、相手にとって村長を責める材料にもなりかねないためだった。




三人は、お互いの安全を誓い合い村へと仕事を達成するために戻っていった。






二人はその夜、父親にそのことを告げた。



しかしそのことを聞いた父親は、驚きもしない様子だった。







「そうか……知ってしまったか」





「「え?どういうこと?」」






二人はその言葉に対し、父親にその言葉の意味を問い掛けた。





「実は、そういう話があることは前から知っていたのだ。だが、お前たちにはなるべく変な心配を掛けさせたくなかったから、私の信頼がおける者たちにはそのことを口にしない様に伝えていたのだが……」




人の話を止めることなど不可能だろうし、それ以上にその話を広げたい者が多数の者に言いふらしているのだろう。



本当のことを言えば、二人があの子を助けられたことも分かってもらえるが、それ以上に二人に対して悪い噂が立つ可能性が高い。



「……気にするな、ただの噂話だ。さ、今日はもう寝なさい」





それが娘に対する優しさからの発言であることを感じ、二人はその言葉に従い自室へ戻っていった。









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