3-202 東の王国6
「もうすぐ……よね……確か」
エイミが息を切らしながら話しかける。
「うん、この辺だったと思う……あ、あそこ」
セイラが指さした先に、薄暗い中に木々の光が差し込んでいるのが見えた。
二人はまたこの場所にやってきた。
時期が過ぎてしまい前ほどの量ではないが、ライナムのつぼみの入った籠を地面に置いて緑の絨毯の中を歩く。
この場所の真ん中あたりに立ち、上を見上げる。
そこには空からの光は差し込んでいるが、あの精霊の種のようなものは降ってきてはいない。
二人は首の後ろが疲れ、伸ばされた前側も痛くなるくらいずっと空を見上げていたが何も起こる気配はない。
「イテテテ……あの時だけだったのかしらね」
顔を元に戻したエイミが、詰まってしまった首関節ををさすりながらセイラに話しかけた。
セイラも全く同じ動作をしているが、双子にとっては当たり前すぎてエイミは気にも留めない。
「イテテテ……そうね。あれから時間が経っているし、あの時だけだった可能性の方が高いわよね」
「ねぇ……あなた達の仲間はもういないの?」
エイミは、姿を隠している精霊に声を掛けた。
今までは呼びかけるとすぐにその姿を現し、嬉しそうに近くをクルクルと回ってた。
しかし、今回は呼びかけてみても何の反応も示さない。
「……精霊さん?」
同じ疑問を感じたセイラも、ここまで一緒に来た精霊に言葉を掛ける。
結果は同じだった。
それどころか、自分の周りにいた精霊さえも姿を見せない。
二人は急に不安に見舞われた。
僅か二週間程度の時間だが、ほぼ同じ時間を過ごしてきた。
最近では、意思が通じるようになりその存在に親しみが感じられるようにもなっていた。
その存在が急に反応を示さなくなったことに対して、強い不安を感じ始めていた。
「もしかして、元の世界に帰っちゃったのかなぁ」
「ここに連れてきちゃいけなかったんじゃ……いや、でもそうだとしたら帰ることができたからよかったんじゃない……の」
その言葉には、嬉しさは感じない。
それよりも、別れの挨拶も出来ずいなくなってしまったことに対しての絶望感や悲しみが強くなってきている。
二人は呆然と、この空間を見つめる。
またひょっこりと、いつも通りにあの姿を見せてくれるのではないかと期待しながら。
しばらく待っていたが、この場には何の変化も生じない。
ただ風が草木を揺らす音が時折聞こえるくらいだった。
エイミとセイラは、自然と視線が合った。
お互いの目は、ある一つの結論を語っていた。
「……そろそろ行こっか」
「……そうね、村に帰りましょ」
自分の気持ちを押し殺し、相手の気持ちを気遣うような笑顔をお互いが浮かべている。
入り口に置いていた籠を抱え、ある言葉を我慢していた。
(ここに来なければよかったなぁ……)
そうすれば、まだ楽しい時間が続いていたかもしれない。
でも、あのまま謎が多いままもすっきりしなかった。
そのためにここに来たはずだったが、こんなことになってしまった。
あの時には、そんなこと考えもしなかった。
(そう……元に戻るだけなのよ……これでまたいつも通りの毎日に戻るのよ)
そうつぶやくセイラの目から、涙が零れた。
その涙を人差し指で拭い、ゆっくりと深呼吸をする。
「――さ、行きましょ!!」
「そ、そうね。また遅くなると、また怒られちゃうわ!」
セイラの言葉に応じたエイミもまた、涙声で応えた。
――ビュウ!
森に一つ、強めの風が吹き抜ける。
背中から吹く風にスカートの裾がめくれそうになるのを片手で抑える。
風は収まり、二人は後ろを振り向かずに歩き出そうとした。
『……ちなさい』
「「……??」」
どこからか声が聞こえたような気がして、二人は顔を見合わせる。
「ねぇ、いま何か言った?」
「エイミこそ、何か言ったんじゃないの?」
二人は、先ほどまでいた場所を振り返る。
そこには何もなく、ただ光が数本上から差し込んでいるだけだった。
しかし二人は、何か見落とさない様にその景色を注視する。
「「――あ!」」
自然界にない現象について、二人は声を上げた。
すると光が渦を巻き、そこに”何か”の存在が集まっていく。
集まった光は凝縮され点になり、そこから膨張を始めていった。
光は輝きを増し、眩しくなる。
エイミは腕で光を遮りながら、その様子を何とか確認しようとしていた。
だが光はその強さを更に増し、人の目でとらえることのできる光の量を超えた。
「「きゃあぁぁぁっ!?」」
二人はその眩しさのあまりに、とうとう目をつぶってしまう。
その光の強さに、閉じた目の中に白い小さな虫のような模様があちらこちらに飛んでいた。
閉じた目の中の虫も次第に収まり、エイミは静かに目を開ける。
するとそこは真っ白な世界が広がり、どこまでも続いているようだった。
隣を見ると、セイラもまた同じタイミングで目を開いた様子で辺りを見回している。
「こ……ここは!?」
「さっきまで、森にいたはずなのに!?」
慌てる二人に再び、頭の中に声が響き渡る。
『ようこそ、”精霊使い”たちよ――』
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