3-197 東の王国1









「今回の騒動は、我が東の王国の”王選”と何か関係性があるのでしょうか?」





『うーむ……”ある”と言えばあるだろうが、”ない”といえばないかのぉ?』





「「――??」」





ハルナとエレーナには、モイスの答えがさっぱり通じなかった。


そんな二人を見て、モイスは問い掛ける。




『お主たちは、王国が建立された時の話はきいておるのか?』




ステイビルとエレーナは頷いて見せるが、ハルナだけが呆けた顔になっていた。







『そうだったな。お主は、また別な世界から来たからこの国のことは良く分からんのだな。……よし!ワシが東の国ができた時の話をしてやろう!』




モイスは自分の知っていることを知らない者に話しをできることが嬉しそうに、王国の始まりの話を話し始めた。
















今の王国が建国されてから、おおよそ六百年の時間が経過している。

初代から数えて、ステイビルたちの父であるグレイネス王が第十八代目の王となる。



王はほぼ……いや例外なく王選で選ばれたものが三十歳前後で即位し、そこから平均三十~三十五年程度在位している。








――時は遡る

ディバイド山脈のふもとには、これから東の王国となるいくつかの村がそれぞれで生活を営んでいた頃。


当時近くに存在していた村々には交流があり、それぞれを牽制し合うこともなく生き残るために協力して生活を営んでいた。









ある日、その中の一つ村で村長の家に双子の女の子が生まれる。

長女の名前は”エイミ”、次女の名前は”セイラ”と名付けられた。





双子の母親は、二人を授かった晩に夢を見ていた。



その場所は見たこともない、立派な街並みと中心部に堅固な城を構えた町だった。

しかしその街が、城から様々な場所で黒煙を上げて赤い炎に包まれ燃えている。





そこには大きな黒い物体が空に浮かんでいるのが見えた。


恐怖で逃げ惑う人々、立ち向かうが簡単に返り討ちに合う者たち。




背後には、蝙蝠の羽を背中に付けた魔物が近付いてくる。

この時代にも魔物は存在していたが、襲い掛かる記憶の中にはない邪悪な性格と顔をしている。


魔物は黒いモノを投げては、逃げ惑う人々……他種族の生物まで破壊して殺戮を楽しんでいた。





夢の中では思うように足が進まず、人々の流れから取り残されてしまい焦りが募る。






『――ドン!』





背中に何かが当たる衝撃を覚え、振り返ろうとしても身体の半分が動かず地面に落ちていく。

手ついて首だけ後ろを向くと、自分の身体の半分が制御を無くし倒れ込もうとしていた。





……夢は、その場面で終わりを告げる。






忘れたいが、忘れられない夢となった。







月日が経ち、今度は双子を誕生させて肉体的も精神的にも疲れ果てたその夜。



また、忘れかけていた”あの時”の夢を見る。




だが、その内容はあの日の内容とは異なっていた。





町は燃え盛り、逃げ惑う人々。

今回も何かが絡みついたように足が重く、素早く逃げることができない。




だが、徐々に魔物との距離は詰まっていく。





『――ドン!』





また、あの嫌な音が鳴り響く。




……




だが今回は、倒れ込まなかった。




後ろを振り返ると、氷の壁がその身を守っていた。


そこには同じ顔をした二人の女性が、左右対称にこちらを見てにこりと微笑む。

安全を確認した二人の女性は、向かってくる魔物に向かって手を出し風の円盤を作り出し魔物を切り刻んだ。





二人は新たに出現した魔物に向かって、飛び出していった。





今回の夢は、ここで終わっていた。





寝床で横を向くと、ほんの数時間前にこの世に生まれた二人の子供が、小さな寝息をたて安心した顔で眠っている。




そして、つい先ほどまで見ていた夢を思い出しつぶやいた。






「うーん、まさか……ね?」









そこからエイミとセイラは、何事もなく成長し青年期を迎える。


頭の回転の速さとその器量の良さは、この村の中で過去に類を見ないと言っていい程のものを持っていた。

そうして村の中では、”誰が二人を娶るのか?”という話題が村の中で日常的な挨拶になるくらいだった。


しかし相手は”村長の娘”で、しかも頭の切れも容姿も良い娘ともなれば、そう簡単に結ばれることが許されるはずもないことは判っている。

いくら臨んだとしても村を治める長の娘、ゆくゆくはこの村を治める者となるべき人物。

そう思うと誰もが、その候補に手を挙げることを躊躇してしまっていた。






その噂は次第に一つの村だけにとどまらず、周囲の村にまで広がっていった。








成長したエイミとセイラは、父親に伴侶の話しをされるたびに嫌気がさしてきた。

村長であり父親でもあり、二人の愛くるしい自慢の娘の将来はもっぱらの悩みの種であった。




”――どちらかが、早く父と母を早く安心させておくれ”



だが、二人にはその気が全くないのだ。





父親は毎晩、食時の際にはため息を交えながら独り言のように呟いてくる。

当初は母親は二人の味方をしてくれていたが、村の中で会う人全員にしつこく動向を質問される。

それは、村に蔓延した噂によるものだった。

母親も、そんな状況に嫌気がさして味方から外れていったのだった。





そんな時が続き、二人は相当気が滅入っていた。




二人は気分転換に村の外へ出ようということになり、近くの森を歩くことを決めた。

そこで、運命が変わる出来事が起きるのだった。









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