3-194 あの日のできごと








『――よくきた。ワシが水の大竜神の”モイス”だ』




そこに姿を現したのは、ハルナが東の王国で見た大きな西洋竜の姿だった。

エルフの村で助けてくれた時のヤモリの姿とは異なり、威厳のある壮大な姿だった。





「……っ!!」





巨大な姿に、初めて見る者たちは委縮する。


この存在が敵に回ったとすれば、決して勝ち目はない……

ステイビルはそう判断したが、今までも王国の味方としての存在であることを聞いていた。

だが、聞いていたからと言って、この姿を前にして委縮しないものはまずいないだろう。





その中で、ハルナだけが威圧されずにモイスに話しかけた。



「モイスさん……ということは、あの悪魔から助けてくれたのですか?」




その声に他の者たちは、金縛りに似た状態から解放され背中に流れる汗を感じる。






『それもある……だが、この場所を知られるわけには行かないため、お前たちをこの時空に引き寄せたのだよ』






モイスは、ハルナの問いにそう答えた。






「偉大なる大竜神様……会話に口を挟むことをお許しください。私はこの山に住まわせて頂いております、エルフのナンブルと申します」







モイスは長い首を動かし、顔をナンブルの方へ向けその姿を見る。

その目は何かを探るような視線で、膝を付いて敬意を示すナンブルのことを見つめていた。







『お前は、あの時のもう一人の方のエルフの者か?……いや、違うな。子供か?』





「その通りでございます……大竜神様。私は、あの時のゾンデルの息子でございます」







『……そうか。あれからだったな、エルフの村ができたのは。……だが、ワシの名を使い摂理に反したことも行っていたようだな』




「……その通りでございます。我らは罰せられるのでありましょうか?」







その言葉にブンデルは何かを言いかけた、頭の中にサイロンの最後の姿が浮かんでいた。

が、それを察したモイスからの威圧を受けて言葉を発することができなかった。





『罰するも何も、ワシにそんな権限はありはせんよ……』





「……ぷはっ」




モイスは、ブンデルに対する威圧を解いた。





『もし、お主たちがワシに敵対する意思があるならば、全力を持ってそれ相応の対応はさせてもらうがな』






「そ……そんな!?我らエルフは大竜神様を崇め奉っても、仇なすことなど決してございません!!」




モイスは頭を動かし、少しむず痒しさを感じ顔を動かす。

このエルフだけに限った話ではなく、信仰対象として崇められていることは知っていた。

だが、それはそれぞれが”勝手にやっている”だけのことで、モイス自身にはそのつもりは全くない。








『そうか……だが、そこまでしなくともよい。ワシもまたこの世界に生まれたもの一つなのだ。それとワシのことはモイスと呼ぶがいい』






ハルナは、モイスが少し照れていることを感じて吹き出しそうになる。

しかし、ナンブルの誠実な態度をみると、ここで茶化してはいけないと空気を読んでグッと我慢する。







「それでは、失礼して今後はモイス様とお呼びさせて頂きます。……それでモイス様、一つお伺いしたいことがございます」




『ふむ……なんだ?』




モイスは目を細め、ナンブルの顔を改めて見返す。







「私の父が見たあの日……あの時一体何が起きていたのでしょうか?父のゾンデルから聞いた話では、初代村長となったエルフがモイス様に対して矢を放って傷つけたと聞いております。ですが、実際にお姿を拝見したところ、我らが矢ごときでモイス様が傷付くとは到底思えないのですが」







ナンブルは、あの日の真実を確認するべくモイスにその時の状況を確認する。



確かにあの頃のエルフは魔法も使えたものがいたと思うが、ただの矢でモイスの身体を覆う鱗が矢を通すとは考えづらい。

モイスはそのことに対して何もしないとのことだったが、当時何が起きていたのかは知っておきたいとナンブルは考えていた。





モイスは目を閉じて、長い首を畳み頭を下げる。







『そうだな……あの時のことを話しておいた方がいいかもしれんな』





そういうとモイスは、その時の状況を語り始めた。








時は今から遡り、千七百年前。


各種族は存在はしていたが、まだ大きな集団で行動をすることがなかった頃の時代。


その時代にはすでに魔法と精霊の力は存在しており、その特殊な力を扱えるものが小さな集団の中で長の役目をしていた。





それよりもはるか前に存在していたモイスは、この世界が生物によって動いていることを楽しんでいた。




自分と同種の存在も確認していたが、特に用事もなく慣れ合うこともないため独立して行動をしていた。






ある日、自分だけの時空の中に入り込んだ者がいた。





モイスは警戒しその侵入者に対して威圧しようとしたその瞬間、背中に燃えるような激しい痛みが生じた。





『グギャアアアアアア!!!!』






モイスはこの世界共通の言葉を話すことができるが、その叫びは獣そのものだった。





”この攻撃はこの時代の普通の攻撃ではない――”







身の危険を感じ、モイスは時空を飛び出し大空に飛び出していった。





ある程度上空に移動した後、追跡者がいないことを確認し別な時空を創りその中に身を隠した。

モイスはその中で長い首を使い、負傷した個所を確認する。


その武器は矢に魔力を纏わせたもので、黒いシミがモイスの身体を徐々に浸食していく。





――ガッ!!





モイスは自分の身体の一部をかじり、浸食する攻撃された箇所を取り除いた。









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