3-191 モイスの住処
ステイビルたちは、サイロンの部屋のなかにいた。
そこにはナンブルの姿もある。
「……それで、私に聞きたいことというのは?」
準備が整ったゾンデルは、ゆっくりとした口調でこの場を持つように依頼をしてきたテイビルに言葉を掛けた。
同盟の内容については、今現在話を進めているところ。
それに、そういう話であればドワーフの長をここに呼んでいないのは、協力体制の中で隠し事をしないという空気の中においては、せっかく上手く生きそうになっている関係にも大きな影響が生じる。
(まずは話しを聞いてみるか……)
万が一、良くない話しの内容であれば上手くいきかけているこの話を存続するように説得し、それを超える話しであれば協力の破棄も可能性に含めなければならない。
ゾンデルは、ステイビルの言葉を静かに待つ。
「それでは、まずこちらの事情をお話しましょう……」
ステイビルは、身を乗り出して話しかける。
ゾンデルは次の言葉に対して、息を止めて待つ。
「我々は現在、東の国の王選で旅をしているのです」
そこから、ステイビルはこれまでの状況も含めたゾンデルに説明した。
”次期の王となるには、四つの大精霊と、四つの大竜神の加護を受けなければならない”ということを。
その話を聞き終えたゾンデルは、口から安堵の言葉を漏らした。
「なんだ……そんなことですか」
「――え?」
「い……いや、すみません。なんでもありません、失礼しました!」
ゾンデルは取り繕うように、ひきつった笑顔をステイビルに向ける。
「要するに、ステイビル様は加護受けるべき居場所を探しながら旅をされている……そういうことで宜しいですね?」
ステイビルもそういう話をしたつもりでいたので、上手く伝わったようで安心した。
「では、何か心当たりが?」
「はい……ですが、今もそこに住まわれているかは判りません。随分と前の記憶なので」
ゾンデルにとっては忘れられない記憶だった。
あの日から、エルフの村の問題が始まったのだ。
ゾンデルは、少しだけエルフの村ができた時の話をステイビルたち聞かせる。
ステイビルたちはエルフの村に入る際に、ナルメルから少しだけ話しを聞いていた。
実はそのことがずっと頭の中に残っていたのだ。
「できれば、そこの場所に案内して欲しいのですが……」
「それは大丈夫なのですが……」
「……何かあるのですか?」
歯切れの悪いゾンデルの言葉に、エレーナがその意味を問い掛ける。
「実はその場所に何度か出向いたことがあるのですが、その洞窟がどこにも見つからないんです」
「え?塞がれたんですか!?」
「それは考えにくいでしょう……大竜神様のお力であれば可能かもしれませんが。子供の頃に見たとはいえ、あれだけの大きなお身体を寄せられていた場所が、そう簡単に埋まるとも思えません」
「私も父に連れられて何度か、村長の目を盗んで現地と思われる場所に行ったことがありました。周囲を調査し、地面や森の草木の成長から見ても”ずっとそこに存在していた”かのように周囲の区別がありませんでした」
歴代の村長たちは、この場所をもっと危険な場所として周囲の立ち入りを禁止させていた。
それは自分たちの嘘を隠蔽させるための処置で、嘘の歴史を暴かれないためのものだった。
村長たちは、自分でもその場所に行ったことがあった。
結果ゾンデルたちが見たものと同じだったため、これで自分たちの嘘がバレることはないと安心していたのだった。
ハルナは、とある疑問が頭に浮かびそれを口にした。
「あの……すみません。それはいつ頃のお話しなのでしょうか?」
その言葉にゾンデルとナンブルは顔を合わせて確認する。
「私が大竜神様の洞窟を見たのは……一千年以上前……かのぅ」
「調査に行ったのも……五、六百年くらい前でしたかね?」
「千年も!?」
「五、六百年前ですか!?」
エレーナとハルナは、気が遠くなるくらいの年月が出てきたことに驚いた。
ゾンデルとナンブルにとっては、人間にとっての数十年の感覚かもしれない。
その話を聞いてずっと腕を組んで考えていたステイビルが、考えがまとまったように口を開く。
「私もこの目でその場所を見てみたいのですが……」
「……わかりました。それでは、その場所までナンブルに案内をさせましょう」
「有難うございます……ゾンデル殿」
こうしてハルナたちは、モイスがいる場所の近くまで連れて行ってもらえることになった。
翌日、準備が終わったステイビルたちは屋敷の前に集合する。
メンバーは案内役のナンブルと、東の王国のメンバーにブンデルとサナが加わる。
話し合いの後、二人に話すと興味を示し”ぜひ連れて行って欲しい!”と懇願された。
もとよりステイビルは、二人にはついてきて欲しかったので問題はなかった。
イナとデイムは今後の協議があるとのことで、この村に残ることになった。
「皆さん、準備はよろしいですか?……そろそろ出発します」
ナンブルの掛け声を合図に、ハルナたちはグラキース山の頂上に近い場所を目指して進み始めた。
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