3-184 エルフの村の防衛5









ハルナたちは空に舞い上がったレッサーデーモンが、魔法の矢で貫かれて墜落していく様を遠くから見ていた。




いま、ハルナたちはエレーナと合流し、東の国のメンバーでその対応を行っていた。










最初に相手にしていたレッサーデーモンが屋敷の方向へと逃げ、それを追いかけていたハルナたちはその途中でナンブルと遭遇する。



ハルナたちは、もう一体の方を先に片付けて欲しいと依頼された。

その思惑には、村の被害を少なくさせるためという考えがあった。





そのことを承諾して、ハルナとソフィーネはエレーナと合流しもう一体への対応にあたった。














「……もうっ!しつっこいわねー!?」






エレーナは、レッサーデーモンの攻撃を氷の壁で防ぎながら悪態をつく。





攻防は人間側が優勢だった……しかし、それもほんの僅かな差だった。

言い換えれば、ハルナたちに被害が出ない程度というもの。






その優劣は、突然その立場を変える。






ガキーン!!




アルベルトが使っていた剣が、レッサーデーモンの腕の一振りで折れてしまった。



ドワーフの町で整備をしてもらっていた時、切れ味を増すために削ったことに切れ味は上がったが強度が少しだけ落ちていた。


ドワーフたちにとっては最善の策で施してくれていた整備だったが、相手の力が剣の強度を上回っていたために耐えきれなかった。






(自分の腕が未熟のために剣を……)






アルベルトは、ドワーフに申し訳ない気持ちになる。





そこに、ステイビルが合流し運よくドワーフ……ジュンテイから託された刀を持ってきていた。





ステイビルはアルベルトがレッサーデーモンの攻撃を交わしている姿を見て、攻撃手段がなくなっていたことに気付く。







「――アルベルト!!!」





ステイビルはアルベルトの名を呼び、屋敷より持ってきた武器を意識させた。





アルベルトがステイビルの近くまで行きやすいように、ハルナ、エレーナ、ソフィーネたちはアルベルトのサポートする。



攻撃はできないまでも、相手の足止めをするだけは十分な戦力だった。


ハルナ、エレーナの攻撃とソフィーネの素早い動きによる攪乱でレッサーデーモンは自分の思うようには動くことはできなかった。








その行動に腹を立てたのか、レッサーデーモンは一旦上空の高い場所に移動した。


そして大きな声で嘶き、エレーナめがけて急降下する。




エレーナの身体を束縛しようと、伸ばした腕襲い掛かる。







「エレーナ!!」






助けようとハルナは、飛び出そうとしたがその行動をソフィーネに止められる。


その瞬間、視界の端から飛び込んでくる人の姿が見えた。





レッサーデーモンは本能的に危険を感じ、急浮上して危険を回避しようとした。






――ザッ





ドっ……ドっ……ド……









エレーナを掴もうとしていた切り落とされた腕が、地面を数回跳ねて転がっていく。






「アルベルト!!」






エレーナは、目の前を横切り自分を助けてくれた者の名前を呼んだ。






アルベルトは装備を変え腕に付けていた盾を外し、刀を両手持ちで構える。

ハルナがみればその姿は、この世界にはいない侍のような雰囲気が漂っていた。















いままで相手の剣を、この強靭な腕と爪で跳ね返してきた。

元素を使ってくる攻撃や惰弱な人間による打撃での攻撃は、鬱陶しくはあるがこの身に全くダメージが与えられるようなものではなかった。




今までも、何度もこのような状況は経験しており、いつも同じような結果になっていた。





”――最後に勝つのは自分だ”



悪魔は、そう思いながら目の前の小さな生き物たちに対峙していた。




焦る必要もなく、ゆっくりと命と体力を削っていき最後に止めを刺せばよかった。

その間に、周りの環境も破壊できるならば、これに越したことはない。








グレーターデーモンのように、理論的思考や言語能力は持たないが殺戮や破壊のための方法なら考えることはできる。




オオカミやコボルドのような下等な生き物と同じように、生きるための欲求や快楽を満たすため必要最低限の知能は持ち合わせていた。

今回その中に備わっている知能の中で、初めての経験する感情がレッサーデーモンの頭の中に芽生える。






その不快な感情の名は”恐怖”





しかし、その生まれたばかりの感情を理解することはできなかった。

ここでその感情について考えていればこの後の行動も変わっていたであろう。




所詮それは、結果論の話しだった。












レッサーデーモンは自分の身体を傷つけた今までと違う攻撃に苛立ちを見せて、最初に葬るべきターゲットをアルベルトに定めた。




体格も攻撃範囲も自分が優勢と感じたレッサーデーモンは、残された三本の腕の爪で力任せに何度も切りつける。




この人間は先程、自分の攻撃を盾で防いでおり、何度かひるむ姿を見ている。

今は盾も装備していないため、最大の力で押し切れば肉の破片が飛び散るものと考えていた。




だが、それは悪魔の希望的観測だった。







アルベルトは、盾を外したことで最小限の動きで攻撃を交わしていく。

回避動作中の攻撃については、刀で弾きその軌道を変えている。

しかも、小さな切り傷のおまけ付きだった。




アルベルトの行動は、水が流れをイメージさせるような無駄のない動きを見せる。





レッサーデーモンは小さな傷でダメージは無いと言えども、攻撃が当たらないことと少しずつ削られていき不快感は募るばかりだった。

とうとう我慢も限界に達し、レッサーデーモンはアルベルトと距離を置いた。



残った一本の腕と、反対側のもう一本の腕で手を合わせその空間に黒い球体を作り出していく。






その姿を見たアルベルトは自然と刀を腰の鞘に納め、そのまま刀を抜く体制のまま相手の様子を伺う。


準備が整ったレッサーデーモンは、咆哮をあげ黒い球体をアルベルトに向かって放った。







ハルナたちから見れば早い放出速度も、今のアルベルトから見ればゆっくりとした動きでとらえられていた。

黒い球体は、アルベルトの刀の間合いに入り、アルベルトは一瞬にして剣を抜刀する。


斬撃は形となって放たれ、目の前のものを全てを切って進んで行く。








その結果、黒い球体は二つに割れ空気の中に消えていく。


それと同時に、レッサーデーモンの上半身は右の腋の下から左の肩にかけて亀裂が入り滑り落ちていった。








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