3-174 いつかどこかで









「さらばだ、名も知らぬ愚かなエルフよ」






ダークエルフは振り上げたダガーを握る腕を、ブンデルの息の根を止めようと振り下ろした。








――ドッ



ダークエルフの手には刺した時の衝撃が伝わってくる。

が、それは”いつも”の生き物に突き立てた感触とは異なった。






そこには、ダークエルフとブンデルの間には草の塊が出現しており、そこにダガーは突き刺さっていた。





ブンデルん仕業かと思いその顔を見るが、獲物は気を失ったままの状態だった。

ということは、誰か別のものがこの場所にいる可能性がある。







「誰だ!?」






すると草むらの中から一人のエルフが姿を見せた。






「そんな無防備な相手に止めを刺すのは、見ていて気持ちのいいものではないな。どんな理由があったにせよ……」






ダークエルフは現れた男が話している途中でも、邪魔をされたことに対して腹を立て襲いかかる。



男は腰に下げた剣を抜いそれに応じるが、危害を加えるつもりはなかった。






ダークエルフは短いダガーで自在に攻撃を仕掛けるが、剣技は男の方が上で何の問題もなく攻撃を弾いていった。


最後にはダークエルフの手を弾き、その最後の武器を手放させることに成功した。






「落ち着きなさい!こちらからは危害を加えるつもりはない、何故このような状況になったのか話が聞きたいだけだ」




「うるさい!邪魔をするな!!!」




矢を射ようとするが矢は全て使い切ってしまっており、攻撃をするための魔力も残ってはいなかった。






(クソ、ここまでか!?)








ダークエルフは、悔しそうに自分の周りに光を屈折させる魔法をかける。

それによって自分の姿を隠した。





男は剣を構えていたが、気配と殺気が遠くなるのを感じ剣を鞘に納めた。




男はブンデルをみて、衰弱しているが問題はないと判断する。

もう一つ別な存在の気配を感じ、不自然な草の塊に向かっていく。



男は手で必死に草をかき分けていく、刃物で刈り取った場合に中身を傷つけることが決して無いように。




そして、厚い草の塊の中に小さな子供を見つけ出した。







(この子……このエルフの子か?)






「やれやれ……どのみち放っておくことはできないしな」






男はそういうと、ブンデルを後ろに背負い小さな子は前に抱えた。


地面をみて、草木が荒れた場所を探して歩く、この者たちはこの方角から来たのだと判断して。

もし気が付けばその時は、着た場所を教えてもらおうと考えた。














結局、二人は目を覚ますことがないまま村までたどり着いてしまった。








「ここは……」





村の入り口の建物は焼けた跡が残り、新しい建物の準備も始められていた。


通りを見ると向こうから、村の住民ではない者たちがものすごい勢いで走ってくる。



男は少し警戒したが、こちらに気付き話しかけてきた。






「ミュイちゃん!ブンデルさん!?」






男は今ドワーフが叫んだ名前が、自分が助けた者たちの名だと気付いた。






「お知り合いですか?この方たちが襲われていたところを偶然助けることができました。命に別状はないようですが、脚を負傷しておりますので村長の屋敷に行って治療を」





「あなたがお二人を助けてくださったのですね……有難うございます」





目の前のドワーフは自分の説明を疑うことなく、信じてお礼の言葉も告げることに驚いた。

どうやら後ろにいる人間も、男の言葉を信じて疑っていない様子だった。












サナはまず、ミュイを受け取った。

特に大きな外傷は見られず、ホッとする。


そのまま、ハルナにミュイをお願いした。







ステイビルがブンデルを受け取り、地面にブンデルを横にした。



サナが傷口を確認し、その日ひどさに首を横に振る。

ソフィーネは刺さった矢の端を切り落とし、そのまま奥に押し込んだ。


返しの付いた矢じりは引き抜くとダメージが大きくなると考え、そのままブンデルの大腿部の後ろ側へ突き抜けさせていった。




「あああああ!!!」




意識のないブンデルだが、その痛みに声をあげる。

突き抜けた矢を急いで引き抜き、ブンデルはまた気絶した。

そのままサナが、”ヒール”の魔法で傷口を塞いでいく。



今回は特に組織の欠損もなく、無事に傷口はきれいに塞がった。

反対側も同じく、ヒールで回復をした。






傷口が塞がったことを確認して、ステイビルがブンデルを背負う。






そして村長の屋敷に戻ることを、ステイビルが指示をする。






「あなたも一緒に来ていただけますか?できれば状況をお伺いしたいのです」




「あぁ、もちろんだとも」




ステイビルの言葉にエルフの男は承諾し、後を付いて屋敷まで向かった。





その間ミュイの母親に会い、事態の報告をする。

泣き崩れそうになったが問題がないことを告げ、一旦村長の屋敷で救護することを伝えた。


母親もそれに感謝し、後で向かうことを告げた。

最後に助けてくれたエルフに向かって、感謝の言葉を告げる。





「……あ」





相手の顔を見て、ミュイの母親は思わず声を漏らした。







「……?どうしました?」




「え?……いや、なんでもありません。ですが、どこかで見た気が」





男はその言葉に対して笑みで返し、背を向けてステイビルたちを追って歩き出す。









そして、村長の屋敷に到着しブンデルとミュイをベットの上に寝かせた。




そこに戻ってきた話を聞き、ナルメルが入室する。





「――あぁ。無事なようですね。よかった……どうなること……か……」





「……ナルメルさん?」



サナが、言葉に詰まるナルメルを心配する。

ナルメルはの視線の先には、信じられない人物がそこにいたのだ。




「お兄…様……」





ナルメルは泣きそうな声を我慢して、人物のことをそう呼んだ







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