3-167 本来の目的








月光に映し出された闇から生まれたシルエットは、ハルナたちに向かって話しかけてきた。






「――何故エルフの村に人間がいるのだ?」








「あなたはエルフ?この村の人??」






「おい、人間は無礼なやつばかりなのか?……こちらが質問をしているんだ」





そういうと、背中に背負っていた弓を構えて黒い矢を乗せて弦を引く。







――ビュッ!







何のためらいも合図もなく、その矢は質問をしたエレーナに向かって放たれた。



色が黒いため、夜の中では見えにくい。

エレーナが水の精霊の力で防御をしようとしたが、間に合いそうもなかった。







――バシッ









アルベルトはエレーナの直前で、剣を鞘に入れた状態で矢を叩き落とし方向を変えた。

切断してしまっては、矢がそのままエレーナや周りの誰かに当たってしまう可能性があるためと瞬時に判断した。









「……フン。なかなかやるじゃないか。叩き落としたのは正解だ」








落とした矢を見ると、先の方は軸も鉄になっており、折ったくらいではその力を止めることはできない。

更に先が重ければ、貫通力も増す仕組みとなっていた。






「お前たちが、今この村の中で一番やり手のようだな。ならば、ここで足止めをすれば、他の者の”仕事”も捗るだろうよ」


そういうと、次は二本の矢を構えて弓を引いた。









「さぁ、これは躱すことができるか?」









言葉を言い終えた瞬間、引いた矢を放った。





今度はエレーナも準備をしていた、矢を撃った瞬間にその前に氷の壁を作りだす。



が、その矢は氷の壁を貫通させてさらにこちらに向かってくる。







「……これならどう?」







次にエレーナは、水の壁を作りだした。

水は上から下に滝のように流れその矢の勢いを殺し、ターゲットに届く来なく地面に打ち付けられた。








「……ん?お前たち報告のあった東の王国の者たちか?」



「そうだったら、どうなの!?……それより早く諦めて降参したら?」









ハルナたちが現場に到着してから、次第に戦況がエルフの村側も均衡状態になってきている。



この目の前のエルフが、この中で一番の戦力なのだろう。

ここで足止めもしくは、このエルフを捕らえる事でこの自体は収束していくとステイビルは考えた。









「エレーナ、ハルナ。あの者を捕らえることはできるか?」



「やってみます!ハルナいくわよ!!」


「えぇ!」







ここでもハルナとエレーナは訓練した連携を見せる。






ステイビルはこの集団の生存率を上げるために、色々と連携の訓練を行わせていた。




前衛を主体とし、中衛以下がサポートに回る接近戦。

精霊使いとブンデルの弓を主体とし、前衛はハルナたちに被弾しないように状況の支持や防御を前衛が行う中・遠距離戦。




壊滅戦、防衛戦、相手の戦闘力を奪う方法……様々な考えうる状況を推測し、訓練を行ってきた。

主に、ハルナとエレーナが集団戦の中での戦いが不慣れであったために行われてきた。





二人は今までの危機を乗り越えてきたことからも、決して弱い存在ではない。

ただ、アルベルトやソフィーネに比べ、集団戦の訓練は行われていなかった。




王国内でも応急精霊使いたちの中では、非常事態に備え訓練をおこなってきた。

しかし、王宮騎士団との連携までは行えていなかった。


精霊使いと騎士団は、それぞれはかなりの力を持っている。

それが協力し合い、様々な状況に備えて人員を配置すれば、冒険者のパーティのよりも組織的で効率の良い防衛ができるはず……





ステイビルは今まで試してみたかったことを、今回の王選の旅で実現したいと考えていた。

それによって、自分たちの生存率が上がり先々での困難にも乗り越えられる力が生まれると信じていた。







今回、その成果を発揮していた……だが、それでも二人はあのエルフは捕まえることができなかった。




攻撃力に優れたハルナが相手をホーミング弾で追いつめるもしくは、機動力を奪いエレーナが水の力で捕獲する作戦だった。

次の段階として、逃げ回る相手に氷の壁を使い逃げ道を塞いで、追い詰めていく作戦もあった。





それら全ての作戦が、あのエルフにことごとく躱されてしまっている。

エルフは弓から短剣に持ち替え、腕にラウンドシールドを装備して二人の全ての攻撃を躱していく。




その姿はまるで踊っているかのように、切れ目と無駄のない流れによって動きが作られていた。





そして、ステイビルの合図によって一旦攻撃の手を止めた。







「どうした?お前たちの力……そんな程度なのか?」






息切れや疲れた様子も見せず、エルフは再び屋根の上に降り立ちステイビルを挑発する。




だが、落ち着いたようにステイビルはエルフの言葉に応えた。






「悪いが、お前たちの本当の目的は阻止させてもらったよ……」






ステイビルの隣に、村の中を走っていたソフィーネが帰ってきた。


ソフィーネはステイビルの命令で、拐われたエルフの奪還と襲撃してきた敵の捕獲もしくは壊滅を指示されていた。

そして、今ここにいるということはその命令を果たし戻ってきたのだ。







「……なるほどな。さっきからあいつらの邪魔をしてたのはお前だったのか」








エルフはソフィーネの姿を見て、そうつぶやいた。


ハルナとエレーナの攻撃から逃げている際に村の状況も見ていたが、次々とエルフを襲っていた仲間が片付けれられ捕獲したエルフも解放されている人物の姿は見えていた。





だが、エルフはそのことに怒りを覚えたりしている様子はなく、この状況に飽き飽きしたといった態度を見せている。



突然、もうい一人この場に新しい気配を感じた。






「あら、何か楽しそうないことやってるじゃないの!?」










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