3-140 蒼い鱗








今回は精霊であるフウカが、モイスの能力を媒介する役目を果たした。

精霊は自然界の存在で、モイスなどの自然の理を操作する者としては丁度良いの媒介となった。




フウカは精霊のなかでも比較的成長した存在であったため、モイスの力が流れてもその流れに消滅されることなく脳力を発動することが可能だった。

低級の精霊では、その力に耐えられなかっただろうという話は後でモイスから説明があった。



難しい話はハルナにはわからなかったが、この時空自体がフウカの存在ということだった。








『……なので、お主と契約している精霊も無事だ。安心するがいい……もっともこの精霊やお主の身に何かあれば、ワシの身も危ないからのぉ』




そういうとモイスは、ハルナたちの後ろに存在を感じる大精霊のことを思い浮かべた。









「それで、エレーナたちも大丈夫なのですか?」




『勿論だとも。暴走した魔力とその近くにいたお前たちだけを、この時空に移動させたのだ。この時空はあの場所とは別の時間が流れている、このまま戻れば何事もなく元通りだ』







モイスは魔法の暴発に危険を感じ、あの状況ではハルナとあのエネルギーを別の時空に退避させることが最善と考えての行動だった。

この場所では然の法則で魔力の概念を変え、その効果を無効化したといった。






「有難うございます!それでは元に戻して……あ、その前に一つ聞きたいことが」




『ん、なんだ?』







「あなたは、このグラキース山の中にいらっしゃるのですか?出来たらどのあたりにいるか教えて頂きたいのですが……」





『済まぬが、その質問には応じることはできんな……いろいろと”理由”があるのでな』




「わかりました。今回は助けていただき、ありがとうございました」




『最後に、これをお主に渡しておこう……受け取るがいい』






ハルナは出来上がった身体の手に、何か持たされていることに気付いた。

掌に何か硬い板のような者を渡されたように感じた。






「あの……これは?」









『それは、ワシの鱗だ。少し小さくしているが、正真正銘ワシの身体の一部だ。これをあのエルフに見せてやるがいい……ワシも少し困っていたところだ。後はハルナ、お主に任せたぞ……また近いうちに会えることを楽しみにしているぞ』




「あ、ちょっと待っ……!?」









そうするとハルナの意識は、また真っ白な光に包まれた。


向かってくる虹色の光が、ハルナの後方へ流れていった。


























「ハルナ!!」



「ハルナァあああああああああ……あれ?」






ハルナの身に迫る危険に対して心配して涙目で叫んだエレーナは、瞬時にしてその状況が変わっていたことに戸惑う。

村長は未だに両腕で、自分の顔を庇うポーズでその衝撃が来るのをいつまでも待っていた。









何事もなかったかのように立ちつくしているハルナに、エレーナは声を掛けた。







「は、ハルナ……よね?」






その声にハルナは振り向き、心配と驚いた表情がミックスされたエレーナの顔を見る。



手の中で、もぞもぞと動くものを感じた。

そして、手の中から今までとは違う、小さな圧力を感じての中のものを解放した。






「ぷっ……はぁあああぁあー!苦しかったー!!」




「フーちゃん!!」








ハルナはフウカの無事を喜び、エレーナはハルナの無事を喜んだ。

何が起きたのか後にして、とにかくハルナが無事であったことがエレーナは何よりもうれしかった。






そんな様子を未だ信じることが出来ないまま、呆然とその場に立ちつくしている者がいた。


村長は手にしていた切断された杖が、握る力が失われその場に落ちた。




――カラー……ン

――コロコロロロロ……







長い木の杖の乾いた音が鳴り響き、一同の視線がそちらに集中した。







「何故……何が起きたのだ?……一体何が!?」







村長の思考は、は混乱している。


人間に味方する目障りな精霊を、跡形もなく消滅させるつもりでいた。

更にはその直線状にいた、精霊の契約者である人間をも消滅させるつもりでもあった。



当然、込めた魔力はそれを実行するに足りうる魔力を込めた。

そのため唱えていたライトニングの魔法も、最上位の威力のはずだった。





その魔力を込めた杖が、人間の精霊の力によってそのプロセスを中断された。

しかも最も最悪な段階で。






制御を失った魔力は、暴走する。

その稲妻はを制御を無くし、ここ一帯を黒焦げにしてしまう。



もちろん、発動させた自分も無事ではない。








――そうなるはずだった







目の前には魔力が暴走した直後、何事もなかったかのように普段の空気が流れていた。

一瞬にして、あれだけ膨大な魔力が消滅していた。






(一体……誰が……どうやって?……そんなことが出来るのは……まさか)






村長はその可能性に到達した食後、全身の力が抜けていき手にしていた杖を落としてしまった。











「ハル姉ちゃん……手に何を持ってるの?」



「ん?ハルナ、何か持ってたっけ?」






フウカの言葉に、エレーナの視線がハルナの手に集中する。






「あ、これね……」








ハルナは、手の中に入っているものを見せるため手を広げた。






「……なに、これ?」




エレーナは、ハルナの手から一枚の鱗を手に取った。






「それは!?」




村長がその鱗見ると、膝から崩れ落ちていた。








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