3-138 魔力の暴走






「大竜神ってもしかして……”モイス”さんのことですか!?」







やはり老いたエルフの耳に、ハルナの声は届いていた様だった。

その証拠に、進んでいた歩みはそれ以降止まっていた。



ハルナは、一旦村長に話しかけるのを止めた。

とっさに話しかけ、意識をこちら側に向けさせることのできたその言葉の反応を待った。







「……?」




「ん?」







村長の方から何か声が聞こえたような気がしたが、その声は背を向けたままで小さく震えており聞き取ることができなかった。



ハルナはエレーナと顔を見合わせて、もう一度視線を村長の方へ戻した。

すると次は先ほどよりは大きな音だったが、震えた声で聴きとりづらい状態ではあった。










「人間……いま、何と言った?」




「……え?あの、”大竜神ってモイスさんのことですか?”って聞いたんですけど」








その言葉を聞いて、エルフの村長は振り返る。








「「――え!?」」








エレーナとハルナは、その表情を見て驚いた。



今までの余裕のある表情とは異なり、真っ赤な顔で鬼のような形相でハルナのことを睨みつけていた。






「お前ごとき……人間風情が……あのお方の名を……軽々しく口にするとは!?」




「村長!!な、何をするおつもりですか……!?」






その後ろを歩いていたマルスが、村長の周りに魔力が集まっていくのを感じてその行動を止めようとする。



そして手にしていた杖をハルナに向け、何か呪文を唱えている。

既に詠唱に入ってしまっていたため、






「はっ――あれは!?」






ナルメルが村長の詠唱を止めようとするが間に合わなかった。





「……の身を天空の槍で貫け、”ライトニング”!!」







――バリッ!バシッ!!!






杖の先から出た光は、一筋の雷となりハルナが避雷針となったように襲い掛かる。









――あ!?






フウカが急いでハルナの元に戻ろうとした時、その目の前には水の壁がハルナの前に現れた。







ジ……ボンッ!!!!





雷は水の中に吸い込まれ、雷を取り込んだ水はその高熱で蒸発し破裂した。






「キャッ!?」













少し行動が遅れたが、ソフィーネが爆発した水蒸気からハルナを庇い、背中には熱湯が降りかかる。




「ぐっ……!?」




「ソフィーネさん!?」






ソフィーネは熱湯のかかったローブを脱ぎ捨て、その下の上着も脱いだ。

サナがヒールをかけようと近寄るが、ソフィーネがそれを制した。


その理由は、”自分で大丈夫と感じたこと”と、”まだ他に使用しなければならない可能性がある”とのことだ。




サナがソフィーネの背中を見ても、幸い発赤は見られたが火傷まではなかったようだ。


ローブの下に来ていた上着が厚い生地でできていたため熱が伝わりにくかったのが幸いしていた。

だが、それを着用していても水の壁が蒸発し爆発するくらいの高温だったことがわかる。





ハルナはソフィーネの無事を確認すると、再び村長の姿に視線を向ける。


村長の次のターゲットはフウカに向けられていた。

フウカは村長を背にしていたため、気付いていない。




杖の先に雷の元ともいえる魔力が集まっていくのを感じ、フウカを呼び戻そうとしても間に合いそうもない。







「……ごめんなさい!」






ハルナは、その突き出された杖に向かって空気の円盤を放つ。







――ザッ!

カランンン……







杖の先の塊が地面の上に落ち、乾いた木材の高い音がいつまでも耳に響いている。







「なっ……!?」







村長の口からたった一言だけ漏れた言葉から、とてつもない緊張感が伝わってきた。

次の瞬間、落ちた杖の先の塊から空気の振動にも似た魔力の圧がハルナたちに襲いかかってくる。











「あ、これヤバいやつ……!?」






危険を察知したフウカが、ハルナのもとに駆け寄る。

ハルナも何とかフウカを守ろうと、両手を伸ばしその中にフウカを隠そうとした。




しかし、その真後ろに迫ってくる魔法を途中で中断させたことにより暴走した魔力の衝撃波がフウカの身体を飲み込もうとしていた。





「フーちゃん!!!」



「ハル姉ちゃん!!!」





後ろに迫る熱量は、フウカなど消えてしまいそうなほどのエネルギーがフウカとハルナの目の前に迫っている。







(――掴まえた!!)






ハルナはその両手の中に、いつも触れている感触があった。

その手の先に見える暴走した白いエネルギーが手の甲に伝わる。



それは氷水の中に手を入れたような冷たい痛みが伝わる。





「――あ」






ハルナの身体を、白い光がゆっくりと包み込んで行く。







「ハルナ!!」



「ハルナァああ!!」






スローモーションで、ゆっくりと時間が流れていく。

白い光につつまれながら、ステイビルとエレーナの声が耳に入ってくる。








(……ごめんね、ステイビルさん、エレーナ)






自分の行動が、こんな結果を招いてしまったことをみんなに詫びた。

あのエネルギーは、ハルナたちを襲った後にはここにいる他の人たちをも襲ってしまうだろう。




多分もう伝えることはできないだろうが、その気持ちが伝わるように感謝の念を心の中に込めた。










(――あれ?この景色……どこかで見た気が)








ハルナは意識の中に、引っ掻かる記憶を探してみた。







(――あぁ、私がこの世界に来た時と同じときと……)









その答えに辿り着いたと同時に、白い光の中で見えないがフウカを包んだ手の中から別のエネルギー吹き出すのを感じた。















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