3-122 ジ・マグネル渓谷






「ナルメルさんね……わかった。ここで待ってて、必ず助け出すからね!」



ハルナは、涙を我慢するノイエルを抱きしめて絶対に助けると誓った。





「ハルナさんって、おひさまみたい……いい匂い」



「うふふ……ありがとうね、ノイエルちゃん」





ハルナがお日様のような匂いで思いつくのは、以前飼っていた犬の匂いがそんな感じだった。

その言葉に関しては、微妙だったが子供の言うことなので嫌味ではないと判断し素直に喜んだ。






「……これ」






ノイエルは首に掛けていた一枚の葉の付いたネックレスを取り出した。






「ん?……これは、なあに」




「これ、お母さんにもらったお守りなの。……貸してあげる!」






そのネックレスは、木の皮で編んだ紐に青々とした摘んだばかりのような葉が取り付けられていた。


枯れていない葉を見てハルナはよくできた作り物のだと感心した。





「ありがとうね、大切なお守り貸してもらって。無くさないようにするからね」







その言葉にノイエルは、自分も役に立つことがあったとにっこりと微笑んだ。












「――それでは、行くぞ。出発!!!」




ステイビルの掛け声で、馬が嘶きゆっくいと歩を進め始めた。







「お気をつけて、ハルナ様!」




「「がんばってー!!」」







マーホンと一緒にいるチュリーとノイエルの応援に馬車の窓から手を振って応える。





二台の馬車は、ジ・マグネル峡谷を目指して速度を上げていった。













そして、次の日には分岐点となる道に到着した。

それによって、背後に見えたグラキース山の景色が右手に変わっていった。




目の間に入ってくる景色も、殺伐としたものに変わっていく、

山肌は草木が枯れ、岩肌がむき出しの崖が左右に並んでいる。





「あれがジ・マグネル峡谷か……」







ステイビルが、その峡谷の名を口にした。

何とも言えない、禍々しい感じのする場所であることが肌で感じられた。




ある程度馬車を進め峡谷との距離が近付いたころ、馬車を道から外し森の中に隠すことにした。







そして、ハルナたちは徒歩で峡谷まで向かって周辺の調査を開始することになった。


が、そこで峡谷の方から怪しい集団が出てきたことを確認する。






「見つかったのか……?」







ステイビルたちは一旦、草むらの影に隠れて様子を見る。




集団はハルナたちの隠れた場所を通り過ぎ、進んできた方へ足早に歩いて行った。





「アルベルト……すまないが、後をついて行ってくれないか?」






アルベルトはステイビルの命令に頷き、行動に出ようとした時エレーナが止めた。







「ちょっと待って、私もついて行くわ。アルなら大丈夫だとは思うけど、万が一のためにサポートが必要でしょ?」






ステイビルはエレーナからの申し出を受け入れ、二人で偵察に行ってもらうことにした。















「なんだって、ここ最近馬車の移動が増えたみたいだってな」



「この先の集落に何かあんじゃねーか?」



「まさか、東の国がどこかに侵略しようとしてるとか?」



「だとしたら……その荷物は武器とか食料がたんまり入ってそうだな!?」






集団の男たちは、自分勝手な妄想で話しを盛り上げていく。






男たちは分岐している手前の茂みの中に隠れて、様子を伺う。






「お、来たぞ!」






その馬車は、モレドーネからポッドたちの村に運ばれる物資を運んでいる馬車だ。

細菌では、村の状態も落ち着いてきたため二、三台の馬車で済むようになっていた。


今回は三台で移動しており、一台は支援用物資で、一台は移動用の食料、もう一台は村の警備の交代用の人員が乗る馬車だった。




しかも、今回はドワーフの町との調整が始まるため、交渉担当の人材も同乗しその警備も厳重に行われていた。








茂みの中から二人の男が飛び出し、道の真ん中に立って進路を塞ぐ。






「おい、止まれ!馬車を止めろ!!」







馬車は減速し、男たちの十メートル手前で止まった。









「なんだ、貴様ら。ここで何をしている?」





馬車の先頭の御者の横に座っていた警備兵が、進行を止められたことに不快感を示しながら声を掛ける。







「へっへっへっ……ここは、俺たちのナワバリなんですわ。許可なく通っていかれると困るんですよね」




「だもんで、ちょっと荷物の検査をさせてもらいますよ?……もちろん、”怪しい”ものがあれば没収させてもらいますがね」







そういうと、男の一人は荷台のついた馬車に向かって歩いて行く。

その馬車に乗っていた警備兵は剣を抜き、馬車から降りようとした。








――びゅッ





警備兵の頬に何かが触れたのを感じ、その場所を手で触ると真っ赤な血が流れていた。







「じっとしてろよ。あの茂みの中には、俺たちの仲間が隠れてるんだ。検査が終わるまで、下手に動かない方がいいぜ?」





「ぐっ……!?」



警備兵の男は動きを止め、周囲の警戒を強めた。

この警備兵も、相当な腕の持ち主だった。

戦いの場においては一対一や、少人数で姿を見せている場合には負けない自信があった。



しかし警護となると護るべき対象があり、状況にもよるが無傷よりも命を優先させなければならないこともある。



今は相手の戦力が不明な状態で、不利な状況に立たされていた。




(くそ……どうすれば!?)





警備兵は必死に頭を巡らせ、状況の打開策を探る。






――ガサッ





茂みの中から音がして、その姿を見せた。








「……ほんとアンタたちって、同じ行動パターンなのね。こっちが罠じゃないかって疑うくらいよ?」












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