3-120 作戦変更








「ブンデルさん……どうしたんですか?黙って出てくると何かあるんですか?」




「……私のいたエルフの村は、秘密を守るための規則があるんです。黙って出ていったものは二度と戻れないか、戻っても二百年程度は牢屋の中で過ごすことになるんです」










それは村の場所の秘密が漏れないために創られた規則だという。

戻らなかった場合、また新しい居住区を見つけなければならない。



それにより大きな損害を受けてしまうため、厳しい規則を設けて戒めているとのことだった。




ノイエルはその話を、目を閉じて静かに聞いている。










「……っていうことは、戻ると二百年も閉じ込められちゃうのね」




「でも、お母さんを探しに行ってたんでしょ?ちゃんとした理由が……」








ハルナは信じられないといった感じで正当化しようとしたが、ステイビルはハルナの発言に首を横に振る。








「集団をまとめるとはそういうことではないんだ。誰かひとりが自分勝手にルールを無視すれば、一族……いや種族の滅亡にもつながる。大袈裟な言い方かもしれんが、秘密というものはそういう性質を含んでいる」



「そうですね、ステイビル王子の言葉が正しいと思います。ドワーフの町ではそこまで厳しくはありませんでしたが、町を守るためのルールというものはありました。これは町で生活をしている者たちを、守ることにもなるんです」








確かにと、ハルナは思った。

今まで人の上に立つこともなく、まとめることもなかった。

様々な人をまとめるにはそれなりの強制力というものが、秩序や生活を守ることになるのだろう。


ステイビルもサナも、そういう立場にいた人物だった。

その者たちの発言は重く、信頼性も高い。










「それじゃ、ノイエルちゃん……どうします?このままエルフの村に連れて行くのはマズいのでは?」



「エレーナのいうとおり、このままエルフの村に入るのは良くない気がします……」









アルベルトがエレーナの言葉に賛同した。







その言葉を聞き、ステイビルは腕を組んで目を閉じて考える。

ハルナたちは、静かにステイビルの次の言葉を待つ。





そして、決断したステイビルはゆっくりと息を吸い込み目を開いた。


ステイビルはノイエルの顔を一目見て、ハルナたちに目線を移す。









「我々は、これからふもとの村に戻ることにする。その後に、ノイエルの母親を探索および救出……しようと思うんだが、どうだ?」










その答えにハルナはにっこりと微笑み、ステイビルの命令を承諾した。









「今度こそ、あの女と決着付けさせていただきますね」







ソフィーネも何かに火が付いたようで、目の奥にやる気を見せた。







「さぁ。そうと決まれば、早く戻りましょう!」









エレーナが声をかけて、サナの傍で怯えるノイエルに両手を差し出して自分の胸の中に抱え上げた。

ノイエルはエレーナのその行動を拒否することなく、素直に受け入れ安心してエレーナに従った。






そうして、ハルナたちは村まで戻っていった。

行きに行く手を遮るように吹いていた風は嘘のように穏やかで、帰り道をサポートしてくれているかのようだった。











日が暮れる前に到着しステイビルたちはポッドたちにも声をかけて、再び屋敷の中に集まった。








「いろんなことが起こってますね……何か良くないことが起こる前触れでしょうか?」



「ポッド、そんな非科学的なことを言うなよ。すべて起こる前から存在していた問題が表面化しただけに過ぎん」









ポッドの不吉なことを呼びそうな言葉に対し、カイヤムがその悪い空気を払拭すべく理論的に返した。








「いまは、そんなことを言っている場合ではない。それよりも、あの組織の情報をどうすれば集めることができる?」








ステイビルは、現実に直面している問題をターゲットにし話を進めるようにこの場の参加者に促した。








「この町に取引に来ていた、あの商人の身元は分からないのですか?」











エレーナは思い出したくないであろう、あの事件のことをポッドに向かって確認する。









「拠点を持たずいろいろと集落を回っている団体であると聞いていました。ですから、どこのギルドに所属しているかはわかっておりません。我々としても、そんなことよりも物資を持ってきてくれるなら誰でもよかったような状況でしたから……」



「確かにそうだな……それに聞いたとしても本当のことを話してくれるとは限らない連中だったからな」










その場の全員のテーブルの前にソフィーネと共にお茶を淹れて回るマーホンが、手を休めることなく発言した。









「エフェドーラ家の関係のある信用できる商人にも確認していますが、まだ情報は入ってきておりません。なにせ怪しい組織なので大々的に調べると相手も警戒するでしょうし、その者たちの身も危険が降りかかることも考えられます。ですので、まだまだ何かをつかむには時間が掛かるかと」








事件の後、村に残って立て直しを手伝っているマーホンにステイビルが依頼をしていた。

依頼している商人たちも、マーホンが信用を置けるものだけに厳選して話しているため、情報収集までに時間が掛かるということだった。







次に、ノイエルの話題に移っていく。











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