3-104 ブウムとの記憶2







「わかりました……その時のことをお話しします」





デイムは、嫌そうに重い口を開いた。













三姉妹が屋敷に入った頃、二人は警備兵として入隊しジュンテイの部下であるワイトとグレイに預けられ実力を付けていく。

他の者たちよりも二人の成長が早かったのは、施設内で”遊び”と称してジュンテイに鍛えられていた成果がここに現れていた。



その実力が認められ、二人は入隊して間もない早さで高難度の任務も任されるなど、組織の中での評価も上がっていった。



そして二人は、二年目にして一つの班を任されるようになるまで成長した。




その時二人はお祝いにと、酒場に向かった。

喜びを分かち合い、お腹も程よく膨れたころに真面目な顔をしたブウムがデイムに話しかけた。






「なぁ、デイム……」



「ん、なんだ?もう酔っぱらったのか?……それとも食べ過ぎで腹でも痛くなったか?」







デイムは真面目な顔をするブウムに、茶化しながら返答をする。









「違ぇーよ!そんなんじゃないんだ……ちょっと相談したいことがあるんだが」



「おいおい、なんだよ改まって。あ、金貸してくれっていうなら無理だぞ?お前も俺と同じ職位だからどのくらい貰ってるか分かるだろ?」










二人で真面目な話をするのが苦手なデイムは、何とかこの重くなりそうな雰囲気を交わそうとする。

なんとか酒場の周りのにぎやかさを使って、デイムは平常心を保とうとする。

この発言に、今までとは違うものを感じ、これを聞くと今まで通りでいられない気がしていた。









「……あのなぁ、俺。一緒になりたい奴がいるんだ」



「ふ、ふーん。そうか、それはよかったな」









デイムの気持ちに対して、お構いなしに話を進めていくブウム。

もう、これ以上は誤魔化しがきかないと判断し、相槌だけを打つことにした。



しかし、ブウムもデイムが茶化さないことと話を掘り下げてこないことから何かを感じ取っていた。









「誰かとは聞かないのか?……いや、いい。そのまま聞いてくれ、俺は”サナ”と結婚したいと考えている」




(や、やっぱり……)









デイムはジョッキを口に付けたまま、その話の続きを待った。








「デイム、お前とはずっと小さい頃から一緒にいたから俺にはわかるんだよ。お互い、こういった話題を避けてきていたっていうこともな」









そして、ブウムも同じくジョッキを口に運んで、中に残っていたものを全て飲み干した。










「なぁ、そろそろ”決着”を付けないか?サナが俺とお前の……どちらを選ぶか」



「ちょっと待ってくれ!?ブウム、そんなに急がなくてもいいじゃないか?何を焦って……」



「焦っていないつもりだが、俺としてはもう随分と待ったんだよ。あの施設にいる頃から……な」



「ブウム……」



「俺たちは、本当の親や家族を知らないだろ?本当の家族が欲しいんだ」



「だったら、今のままでも家族のようなもんじゃないか?あの施設の中で育った者が、家族だって思ってないはずはない」











ウエイターがジョッキ一杯に注がれた飲み物を運び、二人の前に置いて空になったジョッキを下げた。

そして、二人の周りには誰もいなくなったころ、ブウムは再び口を開く。









「デイム……お前は、それでいいのか?いつまでも、友達のような感覚でサナのことを見ていられるのか?……悪いが俺はもう我慢ができない。今度一緒に暮らしてもらえないか聞いてみる」








ブウムは言い終えると、ジョッキをもって一気に中の物を飲み干した。








「お前はどうするんだ、デイム?……といっても俺がこうして最初に言ったんだから、抜け駆けはよしてくれよ?」



「わかったよ。俺は……もう少し、様子を見るよ」



「よし!それじゃあ、俺の成功を祈って……カンパイ!!」









後日、ブウムは偶然……いや、あの日から探していたサナと長老の屋敷の中でようやく出会うことができた。





忙しそうに通り過ぎようとする突き当りに見えたサナを、ブウムは呼び止めた。










「サナ。ちょっと、サナ!」









既に通り過ぎて一度その姿は消えたが、呼び止められたことに気付いて戻ってきた。









「あ、ブウムじゃない。元気にしてる?デイムはどうなの?」









サナは両手で本を抱え、顔の半分は隠れながら呼び止められたブウムに話しかけた。









「あぁ、大丈夫だ。それより、ちょっと聞いて欲しいことが……あるんだ」




「なに?今忙しいんだけど、これ持っていかなきゃいけないのよ」










少しだけ不機嫌なサナを見てブウムは”マズイ”と感じ、時間をずらすことにした。









「それじゃあ、次の”開放日”に入り口の広場で待ってるから!」




「うん、行けたら行くね!」








そういって、サナは重い本を抱えて走り去っていった。







そこから数日後……

このドワーフの町では、約二週間ごとに一般の者でも町の外に出ることができる日がある。



通常は周辺警備のためや、緊急時を除いては一般のドワーフが町の外に出ることは許されていなかった。

それは、なるべく町の存在を知られないためでもあり、そうすることによって町が守られていると考えていたからだった。



だが、ずっと地下の町の中で暮らすわけにはいかず、こうして決められた日だけ許可をされた者が外に出ることを許されていた。





ブウムは、朝からエレベータの前にある広場でサナのことを待っていた。



その横では、審査を受けて許可されたドワーフたちが順次エレベーターに乗り込み、外に出ていく。

数時間が過ぎ昼になり、朝早く出かけたドワーフが戻ってくる姿も見られた。





そして、とうとう外出ができなくなる時間になりエレベーターは封鎖された。




結局その日、サナは広場に現れることはなかった。









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