3-97 黒剣






「くそ……ったれ……あと少しで……あと少しのところでぇぇぇえぇぇえ!!!」





ブウムは急に大声をあげた途端、水の輪が真っ黒に染まり風化した。








「おの……れぇ……許さんぞ、許さんぞニンゲン!!」







ブウムは剣を抜き、構えるとその剣から真っ黒な瘴気が剣から漂っていた。





「あと少し……だと?そんな状況の判断ができていないから、こんな状況に陥ったのではないか?恨むなら自分の見通しの甘さを恨むんだな」







そういうと、ステイビルとアルベルトも腰から剣を抜き、襲撃に備えた。


ソフィーネはエレーナとハルナを攻撃から守るために後ろに立った。











「黙れ!人間ごときがこの俺に意見を言うんじゃねーよ!!」




「ブウム!!」







ジュンテイを治療していたサナが、ブウムの姿を見て叫んだ。

しかし、その声は既にブウムには届かった。



剣から湧き出る瘴気が、ブウムの身体を包んでいく。

その身体は灰を被ったかのように、真っ黒く染まっていった。





「グゥルルルガァウ……」





ブウムの表情は一変し、その口からはもはや言葉でないものがこぼれる。






「サナさん、そこから出てこないで!」






エレーナが、ブウムに向かいかけたサナを止める。








「もう……自分の意識がないみたいだから」





そういうとエレーナが氷の粒を、この空間一杯に浮かび上がらせた。


一緒にハルナも見えない空気を圧縮したホーミング弾を作り、その時に備えた。








「グワァッ!!!!」





――ガキン!!





ブウムはステイビルに飛び掛かり、その手にした黒剣で切りつける。

ステイビルはその剣を受け流し、軌道を逸らしよろけたところを剣の柄で後頭部を叩きつける。





そのままブウムは床に叩きつけられ、無様に伏してしまう。



その間、ステイビルは黒剣に触れた自分の剣を確認する。

自分の剣までは、侵されていないようだった。






「がっは!?」







ジュンテイが急に苦しみ始めた。








「ジュンテイさん!?」








サナは回復させたジュンテイが、苦しみ始めているのを見て動揺する。






「傷は……傷は治ったはずなのに……どうして!?」






「その人の身体から、生命力が抜けていっているね」







そう告げたのは、ヴィーネだった。

ジュンテイの身体の中の水の流れを見るとジュンテイの身体から生命力が抜けていくのがみえるとのことだった。








「まさか……この剣が!?」








倒れ込んでいたブウムが起き上がり、その手元の剣は淡く光っている。










「どうやら、ジュンテイさんの体力を吸い取っているみたいだな」



「もしかして、ジュンテイさんもあの黒いのに罹っているんじゃ……」









ハルナはフウカをサナのところに行かせ、ジュンテイの様子を見に行かせる。

一緒にエレーナもヴィーネを行かせて、防御と身体の中の流れを見るように指示をした。








「……ということは、それまでブウムへのダメージは与えられないってことだな」






ステイビルが今の状況を確認する。



もしダメージを与えたとしても、またジュンテイから生命力を奪い回復してしまうだろう。

それはジュンテイにもダメージを与えてしまうことになる。





そこからは、防戦一方となる。


理性を失ったブウムは、お構いなしにハルナたちに攻撃を仕掛けてくる。

時々サナやデイムが、ブウムに対して攻撃を止めるように呼び掛けるがその声は届いている様子はない。




何とかこちらの被害を少なくしようと、エレーナが氷の壁の中に閉じ込めるが黒に浸食されてしまい壊されてしまう。



それならばと、何とか剣の力を無効にしようと剣を凍らせようとしたが、動きが速く中々とらえることができないため失敗に終わる。








そして、ここで事態が変わることになる。









「ハル姉ちゃん、終わったよ!これでこの人から黒いものが消えたよ!!」




「ありがとう、フーちゃん、ヴィーネちゃん!!」




「よし、聞いた通りだ。反撃に……!」










ステイビルは、反撃の指令を出す直前に言葉を止めてしまった。




ステイビルの視界の中に、イナとニナが助けを請うように祈る姿が見えた。










「……反撃にでる。相手の攻撃を奪い、おとなしくさせるぞ!」





「「はい!」」









その言葉を聞き、イナの表情は和らいだ。







「ゴワァアア!!」







言葉にならない叫びで、ブウムは再びステイビルに向かって襲い掛かってくる。









「厄介な縛りを付けてしまったな……フン!」









ステイビルは身体を横に流し、ブウムの攻撃を避ける。

そして、ブウムの持つ剣を強打した。





(よし、剣を……む!?)







ブウムは衝撃で手を離していたが、手から剣が落ちない。

よく見ると、剣と手が一体化している。









「なんだコレは!!」



「どうやら、この黒剣は魔剣のようですな……」








意識が回復したジュンテイが、黒剣を見てそう告げた。






「魔剣……?なんだそれは」




「闇の力を持つ者が持っているとされている剣です。相手の体力を奪う力、魔以外の者を取り込もうとする力。噂には聞いたことがあるのですが、実際に存在するとは……」




「まぁ、それはうちの秘蔵品の一つなんだけどね……」







この場に、今までいなかった女性の声がした。

今までに、何度か聞いたことのある警戒すべき声。







「お、お前は……」




「ヴァスティーユ!!」









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