3-95 ジュンテイとブウム






「ジュンテイ様が……お怪我を」




「それで、お怪我の程度はどのくらいなのですか?」






サナは、自分の力で治せる程度なのかを確認する。








「左腕に斧による裂傷を負っております。幸い、生命には影響がありませんが……」






デイムの言葉は言葉を濁し、サナはそれに対して苛立ちを覚えた。






「どうしたの?はっきり言いなさい!何が起きたの!?」





デイムは、口ごもっていたが







「はい……それが、見たこともないような”毒”に侵されてしまっております」



「毒?それなら、ニナ姉さんの”キュア”で解毒ができるんじゃ……」








その言葉にデイムは、サナの顔を見ながら首を横に振る。






「もちろん、ニナ様からもキュアを施してく頂きました。ですが、その毒には全く効果はありませんでした」







”そんなはずは!?”、そう言いかけたサナだがデイムが嘘を言うはずがない。

その答えはデイムの眼力が、嘘ではないことを告げていた。







「……なお、その毒は今でも進行しております。ぜひ、サナ様もお戻りいただきたいのです!」






サナは、ブンデルとステイビルたちの顔を見渡す。

その答えは、問題ないと顔に現れていた。







「では、姉たちの元へ急ぎましょう。デイム、安全な道は確保できているのですか?」





「それにつきましては、ここまで来た経路が安全でした。……ただ、反対派も総力戦でありまして、賛成派を町中をしらみつぶしに探しております。ですので、状況は変化しておりますんので、都度ご注意ください」








デイムはそう注意すると、早速ジュンテイがいる長老たちの元へ向かった。








途中、何度か見回りの者を見かけるも、こちらが気付かれた様子もなく無事に目的地までの距離を進めることが出来た。


















イナたちが隔離されていた場所は、屋敷の下にある集会所の中だった。

この場所は、長老や町の者たちと話し合いを行ったり、意見交換会としてよく使われていた広い空間がある建物だった。

そのため、この施設の中は、誰もが知っている内容となっていた。

よって、ここには隠し通路の類はなく、イナたちを監視する場所には都合が良い場所だった。



長老の屋敷を襲撃した後にサナとデイムが消えたことを知り、ブウムがこの場所に移動させたのだった。









「サナは……どこに行った。それにデイムはどこだ?あの二人はなぜこの場所にいないんだ!?」







ブウムは少し焦ったような口調でこの場にいるドワーフに告げる。


この場にいるのはブウムが連れてきた仲間が数名と、イナ、ニナ、ワイト、グレイ、ジュンテイだった。









「まさか、この期に及んで抵抗しようとか考えていないよな?どう見ても我々の勝利だろ、おとなしくいうことを聞いた方がいいじゃないのんですか?同族を傷つけるのは、私も心苦しいのですよ」




「ブウムよ……自分たちが勝ったと思ってるのか?」




「ジュンテイ様……何を負け惜しみを言っておられるのですか?……この状況、どう見ても我々の勝利でしょう?現に、あなただって私の剣にやられているじゃないですか?」




ブウムの言葉に対し、ジュンテイは苦しい息を整えながらブウムに気付かせる。





「く……、ブウムよ。では聞くが、お前はここに来て我々の中で腰に下げている剣を抜いた奴を見たのか?」






「――?」






ブウムは屋敷を襲撃してから今までのことを思い返す、最初は仕掛けた緊張と興奮で記憶があいまいなところも多いが、ワイトやグレイとは自分の持つこの剣で何度か打ち合いを行っているはず。




だが、いま奥にとらえている長老の直属警備長二人とジュンテイから取り上げた武器を手に取って見ると、縛られた剣の鞘の紐が解かれた形跡は見られなかった。


その横に置いてある、短刀の鞘が抜かれていることは確認できた。





「落ち着き始めてようやく状況が見えてきたか、ブウムよ。わし等は本気でお前たちとやり合っていなかったのだよ。わし等も同族を傷つけるのは好みではないのでな」






「ジュンテイ……舐めた真似を!?いつまで俺を見下していれば気が済むんだ!!!」







ブウムは手にしていた短刀を投げ捨て、自分の腰に下げた剣を抜いた。

顔を真っ赤にして、怒りを隠さずにブウムはその抜いた剣先でジュンテイの左大腿を迷うことなく突き刺した。






「グッ!?」



「ジュンテイさまぁ!!!」






ロープで縛られていなイナが立ち上がり、ジュンテイの傍に近付こうとするが、ブウム配下のドワーフに止められる。







「ブウム!あなたとの話しも決して間違った内容ではないと思っていました。ドワーフの町を守るためにその気持ちを今まで話し合ってきたと思っていました。……ですが、今あなたの中からそういった信念は感じられません。自分の意見を無理やり通そうとする小さな子供と変わりありません!?」





「うるさい!!長老……いや、ニナ。お前も何故、前の長老の意見を引き継がなかった!お前たちが長老になったとき、これでドワーフの町は俺たちの者になると思ったんだ。小さい頃、お前たちの面倒を見てやったのを忘れたのか?」








そう言って、ブウムは腕に付いた傷を見せる。

イナはその傷を見て、言葉を失ってしまった。



だが、それを見て黙っていられなかったのはニナだった。





「あの時だって、無理やりイナを連れ出したのはあなたでしょ!?私たちはあんな危険な場所に行くのは止めてって言ったわよね?それを無理やり連れて行ってイナを危ない目に会わせて怪我したのはあなたのせいでしょう!!」






「るさい……うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさいぞ、ニナ!!!!!」






そう言って、ブウムは近くにあるグラスをニナに向けた投げた。





――ガシャン!





グラスはニナに当たる前に、氷の壁にぶつかって砕け散った。






「そこまでよ、ブウム」






「サナ!!どうして戻ってきたの!?」








イナとニナは、サナの姿を見て思わず叫んだ。





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