3-53 結晶




ハルナとアルベルトは、急いで川を下り馬を停めていた場所まで向かっていく。




昨日の夜にステイビルたちと別れて、洞窟の中はで一夜を越す形となっていた。

周りの草木を手で払いのけるたび、底に付いたた朝露が身体の体温を奪っていった。



ようやく二人は、馬を停めていた場所に到着する。

底には、乗ってきた馬の姿はなかった。






「うーん……仕方ないわよね。一晩こんなところに居たら危ないし、でもちゃんと帰っていったんですね」



「そのようですね。私たちも、早く戻りましょう。結構飛ばしてきたので、人の脚では半日以上かかってしまいますから」





ハルナは息を整え火花が散る程、両手で顔を二回叩いて気合を入れた。





「……よし、急ぎましょう!!」




頬を真っ赤にしてハルナは意気込んだ。






――ガサ





草むらの奥から、何かがこちらに向かってくる音がした。






「全く……急いでるときに!?」



「シっ。お静かに」






愚痴をこぼすハルナに、アルベルトはハルナに静かにするように警告する。


アルベルトは腰に付けた剣の柄を握りしめ、近づいてくる者に対して待ち構えた。





「ブルルゥ……」





「あ、あれって……待っててくれたの!?」





姿を見せたのは、ハルナたちが乗ってきた馬だった。


よく見ると、何かに襲われて引っ掛かれたような傷が身体の側面に付いていた。




「帰りなさいって言ったのに……」




「ブフゥ……」




「……ずっと待ってたんだって。ハル姉たちのこと」





フウカが、馬の言葉を代わりに伝える。

それ程知能が無いため、辛うじて聞こえる程度の声のようだった。






「そうか……、ありがたい。では、乗せてもらうとしよう」





アルベルトが馬の首筋を優しく撫でると、馬は嬉しそうに嘶いた。













馬は、来た道を疾走していく。




アルベルトが手綱で抑え気味にしないと、限界以上の力で走ってしまい馬が怪我をする恐れもあるくらい力強く駆けていく。


受けた傷口は、念のため消毒をし布を当てて紐で巻いて塞いだ。

無理をして走っているため、布からは少し赤い血が滲んでいた。





ハルナも一晩中起きていたため、眠気に限界が来ていた。

アルベルトにロープで縛り固定されて背中を借りて眠っていた。


馬が駆ける振動もあるが強烈な眠気には勝てなかったし、着いたらハルナが交代で事情を説明しスキルの結晶を渡さなければならない。


役割を交代するためにも、ハルナは移動中休息をとってもらうことを提案した。













そして、ようやくハルナたちは元いた場所に到着した。

風は収まり、避難用にテントを設置しているのが見えた。





「おかえりなさいませ、ハルナ様!アルベルト様!苔は、いかがでしたか?」





マーホンが馬の駆けてくる音を聞いて、馬車の中から飛び出してきた。




「遅くなりました、その話はあとで。とにかく、今のエレーナの状況は?」





マーホンも、ハルナの口調から何かあったと感じ取りそれ以上のことは聞かずにハルナの質問に答えた。





「はい。エレーナ様の状態は、変化がございません。そのため高温が続いており、身体が衰弱しきっております。薬草師の方にもお願いをし、解熱用の薬草を調剤していただいておりますが、変化はございません」




「そうなのね。ヴィーネちゃんはどう?」



「ヴィーネ様はエレーナ様の体調の悪化に応じて、身体が徐々に薄くなってきております」



「え!?そうなんですね、急がないと……きゃあっ!?」







ハルナは疲れで足元がふらつき、躓いてしまい前のめりに倒れ込んだ。

マーホンはそんなハルナを、身体で優しく受け止めた。



ハルナの顔は、マーホンのふっくらとした胸の中に埋もれた。

その柔らかさといい香りに気が遠くなりそうになるが、それどころではないと一瞬で目を覚まし起き上がった。








「ご、ごめんなさい。マーホンさん」



「いいえ、良いのです。お怪我はございませんでしたでしょうか?それよりも早くエレーナ様のところへ!」



「は、はい!」









ハルナは、マーホンの肩を借りながらよろよろとした足取りでエレーナが眠っているテントに向かった。




「遅くなったわね、エレーナ。大丈夫!?」



「おぉ、ハルナか?どうだったのだ?苔は手に入ったのか!?」






具合が良くないエレーナの代わりに、ステイビルがハルナの言葉に応えた。


後で聞くと、一晩中ずっとここでエレーナとハルナたちの安全を精霊と竜の神々に祈っていたのだそうだ。

ステイビルの顔も赤黒く、額に脂汗が乾いた皮膚の表面になっていた。





「苔の話は、ただの噂でした。ですが、一つの可能性を持ってきました」






そういうとハルナは袋の中から布の包みを取り出し、それを開いて中の青い透明な結晶を出した。





「……そ、それは?」






丁度その場で様子を見ていた、薬草師の男が結晶を不思議そうに見つめる。






「これは、エレーナが助かる”可能性”のある結晶です」





ハルナは手でつまみ、ヴィーネの身体にその結晶を近付ける。






「――?」



ハルナは何度も、ヴィーネに結晶を付けて離してといった動作を繰り返し行っていた。




ハルナが何か手間取っているように見え、ステイビルが声を掛けた。






「どうした?何か問題が起きたのか?」





ハルナは額に冷や汗を流しながら、ステイビルの顔を見る。







「どうしよう……は、入らないんです……結晶が……入らないんです」













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