3-26 偽りの鎧







「……お前か?この俺をわざわざ呼び出したバカな男っていうのは」





その男は鎧で身を纏い、どこかに戦争に行くような恰好をしていた。









「お前が、この男のボスか?」




「そういうことになっているな。オレは誰とも組まないんだが、そいつらが一方的にオレに付きまとうんでな、いつの間にか面倒をみることになってな」



「……そうか。それにしても、遠足に行くにはちょっと派手な格好じゃないか?……西の国の紋章が付いているようだが」



「ほぉ。お前は、この紋章を知っているのか?ならば、すぐに金目の物を置いて逃げた方がいいぞ。おれは西の国で警備隊の隊長をやっていたんだ。その実力は……わかってんだろ?諦めて、金目のものは全部置いて帰りな」



「……お前は、ボーキンよりも強いのか?」



「……?そんな奴の名前なんて知らねーな。そんな知らねーやつの名前出して、オレがビビると思ってんのか、あ?」



「ふん、お前の実力が分かったよ……さっさと来い、すぐに終わらしてやる」









ステイビルはその男を前にしても、警戒もせず構えもしない。

そのことが、男の癪に障ったようだ。








「おいおい、女の前だからって強がるのもいい加減にしろよ?剣も持たずにオレに勝とうってのか?……舐めるも大概にしろよ!?」








男は、背中に下げたロングソードを軽々と引き抜き、剣を両手で構えて切っ先をステイビルに向ける。

それでもステイビルは顔色を変えず、まだ相手を格下をみる目で眺めている。



その態度がさらに、男の苛立ちを加速させる。







「――死ね!」







男は構えた剣をそのまま突き出し、ステイビルの心臓を狙う。


男は勝利を確信した瞬間、剣を持つ手に衝撃が伝わる。




しかし、それは勝利の衝撃ではなかった。

気が付くと剣は上を向き、その両腕もステイビルの蹴りによって上に弾き飛ばされ無防備な状態になる。



だが、男は安心していた。

なぜならば、着込んでいるプレートメイルが自分の身体を防御してくれると信じていた。




ステイビルは、がら空きになった前胸部目掛け掌底を打ち込んだ。






「ぶっ!?」






その衝撃は、鉄の板を越えて身体を打ち抜いた。



男はその衝撃に呼吸が止まり、後から遅れて込み上げる嘔吐感を堪えることができなかった。




男は地面に、胃の中に入っていたものを全てぶちまけてしまった。







ステイビルはゆっくりと、男の傍に近づいていく。






「ヒィッ、た……助けてくれ……いや、助けてください!?」







必死に許しを請う男の顔は、嘔吐した内容物が口の回りの鬚に付着していた。








「それでは、ノーランの荷物。全て返してもらおうか」



「申し訳ありません、まさかこんなことになるとは思わずお持ちしておりません!荷物は残しております、ですがお金が……」



「そんなことは知ったことではない。それもきちんと用意しろ」



「は、はい!」





男は、西の警備隊長でもなんでもなかった。

警備兵にあこがれはしたが、実力が足りずに入隊することができなかった。


このプレートメイルも、何とか横流し品を手にしただけで本人のものではなかった。



その話を聞いて、ボーキンの名を知らないことも納得した。

それ以前に、まるで構えがなっていなかったのだった。




鎧の性能に頼り切った結果、そういう部分をおろそかにしてしまっていた。














荷物は、アルベルトが男に付き添い引き取りに行った。


そして荷物がノーランの元に戻り、お金も最初に入っていた以上の金額が入っていた。

それを見てノーランは恐縮したが、死にかけたことの慰謝料として受け取ることをステイビルが提案した。





「が、ガヴァスさん。本当にありがとうございました!」




「ノーランも、荷物が無事に戻ってよかったな」




「はい!エフェドーラ家の紋章も戻ってきましたし、これで一安心です」




ノーランは手にした紋章の入ったメダルを、ステイビルに手渡した。




「これが……エフェドーラ家を示すものなのか?」




「これがあれば、一族であることを証明できるんです。もし一族の名を語っても、これを持っていなければ信用されません」





「ふーん……」






ステイビルは、メダルをノーランの手に返した。





「それでは、宿場に戻りますか?」




エレーナがそういうと、全員その言葉に頷いて店を後にした。











各自がそれぞれの部屋に戻り、休む支度を始める。



ハルナも今日は様々なことがあり、疲れて早々に床に就いた。


がしかし、ハルナの中にサービスをしなければという気持ちが生まれ部屋の明かりを消した後に、ノーランに話しかけてみた。




「……ノーランさん。今は一人で旅をされているようですが、付き合っている人とかはいるんですか?」




「え!?い……いませんよ。小さい頃から、男友達もいないんです」



「そうなんですか!?そんなに素敵なのに……」



「いえいえ、そんなこと……それより。あのガヴァスさんて、とってもお強いんですね。」





ノーランは突然、話題を変えてきた。


こういう時は大抵興味があることを聞いてくる者だと、ハルナは感じ取った。



「ス……っと。ガヴァスさんは、強くてとても頼りになる方ですよ。頭もよくって、素晴らしい方ですよ」



ハルナは、ステイビルのことを持ち上げようといいことばかりノーランに伝える。





「もしかして……ノーランさん。ガヴァスさんのこと……」




「いえ、違います」




「「え?」」




その言葉に、ハルナとソフィーネは驚く。





「確かに、ガヴァスさんってお強いですしかっこいいんですけど……名前がちょっと。私、アルベルトさんの方が好みですし」





ハルナは勝手にステイビルのことを不憫に思った。


隣のソフィーネは、笑いを堪えるのに必死な声が漏れている。






こうして深夜の女子会の会話は夜遅くまで続けられ、ハルナは眠るタイミングを逃してしまった。










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