2-133 帰路の途中




「さて、そろそろ出発しましょうか」



エレーナが、一同に声をかける。



「ステイビル王子、キャスメル王子、その他の皆様。大変お世話になりました、今度は遊びに来てくださいね」




さみしそうにニーナが、ハルナたちに声をかける。





「いいか、絶対にその剣を無くさないでくれよ?」



「は、はい!了解しました」






カステオの声にシュクルスが、緊張の声色で答える。







「心配しなくても大丈夫だ、カステオよ。このような貴重な剣を、わが国でも適当に扱わんよ。約束は守る、安心するがいい」






そういうと、カステオはステイビルとキャスメルに握手をし別れを惜しんだ。


ハルナはニーナの異変に気付き、心配をして声をかける。





「ニーナさん、大丈夫ですか?まだ身体の具合がよくないんじゃ……」



「い、いえ……大丈夫です。大丈夫ですが」






ニーナは下をうつむいたまま、歯切れの悪い言葉を続ける。






「あの、ステイビル様。ニーナ様が最後にお話があると……」






シュクルスが、カステオと会話をしているステイビルに割り込んだ。






「ん?そうか。ニーナ、なんだ一体?」






周りは気を使いできる限り二人の世界を作ってあげようとしたが、この人数では二人きりにさせることは難しかった。


カステオは、この世の終わりのような顔で二人を見つめていた。





「いいの?ほんとはアンタが最後に話をしたかったんじゃないの?」





ソルベティにそう言われたシュクルスは、力なく首を横に振って返した。





「いいんです……どうせ、わたしなんか……元から釣り合う身分じゃないですし。それに、ニーナ様は……ステイビル様のことが……」




鼻を真っ赤にして、シュクルスは言葉を返す。

その様子を見て、ソルベティはシュクルスの頭をくしゃくしゃに撫でて慰める。


ソルベティは、後でかわいい弟の失恋の傷を癒してやろうと心に決めた。






ニーナはステイビルに何の用かと問われ、急いで話しかけた。



「あ、あの!?す、ステイビル様……その、今度、東の国へ行ってもよろしいでしょうか?」




「あぁ。東西で交流するのはいいことだな。是非王選が落ち着いたら、一度来るがいい。その時は、カステオも一緒にな。二人で、東の国を見に来て欲しい」





「え?あ……あ、そうですよね。交流……大切ですもん……ね」




「――?」




ステイビルは、ニーナががっくりとする様子を見て何か変なことを言ってしまったのかと思った。

その様子を見て、キャスメルは”やれやれ”といった態度を見せ、今度恋愛について兄弟で話し合おうと思った。





「それでは皆さま、そろそろ参りませんと」




ソフィーネがそう言って、全員に声を掛けた。

そろそろ出ないと、ディヴァイド山脈の入り口に着くまでに日が暮れてしまう。

それに、これだけの人数で移動すれば時間もかかることになる。




今回は特別に、王宮用の馬車が用意されていた。

カステオは貴族送迎用のもので良いといったのだが、ニーナがごり押しをして王宮用の馬車となった。




何故かステイビルの乗る馬車も指定され、そこにはステイビル、キャスメル、アリルビート、アルベルト、シュクルスと男性ばかりが詰め込まれていた。


ステイビルはハルナと馬車の中で話しがしたかったようだが、ここはニーナの気持ちを汲んで東の国メンバーの連携によって阻止された。






「……ほんと、ステイビル様って乙女心に鈍感なのかしらね。あれじゃ、結婚した相手も苦労しそうじゃない?」



「シュクルスがとっても残念がっていましたね。でも、相手がステイビル様なら敵うところは一つもないんですけどね!」



「エレーナさんもソルベティさんも……まったく。それで、ご自身はどうなんですか?いいお相手がいらっしゃるのですか?」





心配する振りをして、上手く話を身近な人物の話題に移動させたクリエ。

クリエもお年頃のようで、そういう話は気になるようだった。





「エレーナにはね、もう決まったひとがいるのよ……ね?」



「ちょっとぉ、ハルナ!余計なことを言わないでよ!?」



「いたっ!ちょっ、ちょっと!?エレーナさん、落ち着いて!!氷の粒が……痛いです!」








そんな賑やかな感じで時間は過ぎていき、もう少しでマギーの宿が遠くに見える位置に差し掛かった、その時。







――ガタッ!?






先導する馬が暴れ出し、取り乱した。





「な、何事だ!?」




御者の隣に座っている警備兵の隊長がが、大きな声を挙げて何が起きたのかを確認する。






先導していた馬の一頭に乗る警備兵が、駆け寄って来て報告をする。





「道の前に、一人の女性が道を塞いでおります!」




体調が、不思議な顔をしてその者に告げた。




「ならば、移動してもらうかよければよいだけであろうが!?」



「し、しかし馬が、その女性の姿を見て怯えておりまして……」






異変に気付いた、エレーナたちが馬車降りて確認しに来た。




「どうしたのですか?何か起きましたか?」




「は、申し訳ございません。道の前に一人の女性が道を塞いでおるようでして……」






普通の人ならば、この警備兵の隊長と同じように疑問にも思わないかもしれない。

が、ここに来るまでに様々なことを経験したハルナたちは警戒態勢を取った。




「エレーナ様!?」





その様子見た、警備隊長が驚いた。



「ここで待機しててください。もし、戦闘が始まったらすぐに戻って避難してください!」





そういうと、エレーナたちは馬車の列の先頭に向かって走り出した。





報告の通り、目の前の道には一人の女性が道を塞いでいる。

だが、明らかにその女性は人間が本来持つ雰囲気とは異なる異質なものを発していた。






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