2-131 処罰
ボーキンから一通りの話を聞き終えカステオはしばらくの間、目を閉じて考え込んでいた。
そして、自分の中の全ての答え合わせを終わらせて、カステオは口を開いた。
「……そうやって、あの化け物はニーナに近付いたわけなのだな」
カステオはニーナが危ない目に会ったという怒りを抑えつつ、ボーキンに対して確認する。
ボーキンは黙ったまま、カステオの質問に対して頷いた。
「それにしても……だ、ボーキン。お前にも事情があったにせよ、ニーナや王国に対してのお前のその裏切りが許されるというものでもない」
その言葉に対しても、反論の言は聞こえてこない。
ボーキンは、これから自分に降りかかってくる運命を黙って受け入れていた。
今までカステオの横で黙ってボーキンの話を聞いていたステイビルが、今回一番危険な目に会い、最も裏切られたニーナに意見を求めた。
「ニーナ。お前からボーキンに対して、何か言いたいことはないのか?」
ステイビルから話しかけられたニーナは、何も迷う様子もなく求められた言葉を投げかける対象の俯いたままのボーキンを見つめる。
ボーキンとしては、あまり嬉しくはない提案だった。
ニーナから信頼されて支持者となったが、その立場を利用して自分の復讐のためや、危険なヴァスティーユを近づけさせてしまった裏切りの罪がある。
そんなニーナからどんな言葉を掛けられるのか。
いろいろと考え始めると、ボーキンの鼓動は早くなりみぞおちの辺りがキリキリと痛み始める。
そして、ニーナはゆっくりと息を吸い込んで、ボーキンに言葉を掛けた。
「私は平気です。ボーキンさんに、伝えることは何も……いえ。あるとすれば、感謝の気持ちだけですよ」
その言葉に驚いたボーキンは、俯いていた顔を上げてニーナの顔を見つめる。
ニーナも、驚いたその顔を優しく見つめ返し言葉を続けた。
「確かに危険なこともありましたし、命も狙われました。ですが、ハルナさん、クリエさん、アーリスさん、シュクルスさん、その他いろんな方々と出会える事が出来ました。そして、ボーキンさんの理想の王国像もお伺いすることもでき、何も知らなかったわたくしに様々な知識も……与えて……くれました」
ニーナの声が徐々に涙で掠れて、うまく言葉が続かない。
だがそんな状況でも、まだ何かを伝えようとするニーナの言葉を遮る者はいなかった。
「それに……それに、そんなに王国のことを恨んでいたことにもっと私が早く気付いていれば……もっと私が賢くて、もっともっと強い王女であったならば……ごめんなさい、ボーキンさん。こんなに国のことを考えてくれていたあなたを不幸にしてしまった私たちを、どうか……どうかお許しください」
ニーナは両手を顔で隠して、泣き顔を見せない様に努力する。
しかし、ボーキンの辛かった心を思うと悲しみがとめどなく溢れ、流れる涙を抑えることができなかった。
ボーキンは泣きながら話すニーナの言葉に席を立ち、片膝をついてニーナに頭を下げる。
「ニーナ様にそんなことを……そんなお言葉をいただけるような人間ではございません。もっと……軽蔑していただきたい!私を、国に刃向かったかった愚かな私をどうか……どうかお叱りに!……どうか厳罰を!?」
ボーキンも溢れ出る悲しみの感情を抑えることができず、涙を隠すように大きな声でニーナに対して言葉を返した。
その様子を見てカステオは席を立ち歩みを進め、涙ながらに語るボーキンを見下ろした。
「ボーキンよ、よくぞ話してくれた。ビルオーネの策力だったとはいえ、お前の国に対する恨みしかと受け止めた……」
横を見るとあの小さな存在であったニーナも、ここ数年で立派になったように思える。
今も女王としての視線で見つめ、ここまで協力してくれたボーキンに恥じないような態度で接している。
カステオはその姿に満足し、再びボーキンの姿を視界に入れる。
「では、ボーキンよ。最初に申した通り、お前の処罰はすでに決まっておる。これについては、国王にも承諾を得ている」
その言葉にも動揺せず、ボーキンは片膝をついたまま目の前の王子と王女に敬意を払っている。
「では、警備兵隊長ボーキンに対して処罰を言い渡す」
ニーナは、目を瞑り兄の言葉を静かに待った。
「……お前は今日より、王国民と警備兵としての資格を剥奪し、永久的に国外追放とする。もし、この決定に対して申したい事があればこの場に限り発言を許すが……どうだ、ボーキン」
「……何も……ございませ……」
ボーキンは感情が溢れ、うまく言葉にする事が出来なかった。
「ボーキンよ、今までありがとう。我が国のためによく尽くしてくれた、感謝する」
その処罰を聞いたニーナも安心したのか、必死に涙をこらえ真っ赤な目でボーキンのことを優しく見つめる。
カステオは俯き泣くボーキンの肩に手を置きかけたが、そのまま手を引いた。
ステイビルはカステオの背中を、トンと一回叩きカステオにボーキンを労うように合図した。
そして、ステイビルはキャスメルに目で合図を送り部屋を出て三人だけにした。
閉じた扉の向こうから、お詫びの言葉とこれまでの感謝を伝える言葉が涙声で小さく聞こえ、ステイビルとキャスメルは二人並んでその部屋を離れていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます