2-106 ニーナの危機
「うーん……ちょっと、大人気なかったか?」
「ステイビル兄は、短気なんじゃない?我慢が足りないんだよ」
キャスメルの言葉に、少しむっとするステイビル。
何とか自分の仲間を探そうと、ハルナたちに聞いてみる。
「そうか?私はそんなに短気か?」
ルーシーは笑顔で返し、直接は答えない。
クリエは、「そんなことないですよぉ」と一応否定する。
エレーナは、適当な言葉で濁していた。
ハルナは……
エレーナは肘で突いて、ボーっとしているハルナに返答を促した。。
「え?なに?……あ、聞いてませんでした」
そんなハルナの姿を見てステイビルは、自分が短気かどうかなどどうでも良くなった。
そうして、夕方になりエルメトが戻ってくる。
今回は、ニーナ、ボーキン、ゴーフの三名の推薦状が用意された、
しかも、事前にゴーフから王宮警備兵に通達がされるようで、シュクルスのように嫌がらせを受けることはなさそうだった。
念には念をということで明日はエルメトも同伴し、王宮警備兵の申請に行くことになった。
その夜、エルメトはステイビルに付きっきりだった。
アーリスが止めたが、明日からの王宮での注意事項を伝えなければならないと言い、ずっと付きまとっていた。
それ程エルメトは、ステイビルを気に入ったようだ。
だが、当のステイビルは付きまとわれてゲンナリしており、剣を合わせない方が良かったと自分の行動を反省した。
翌日、移動する馬車の中。
ステイビルの前に座るのは、エルメトだった。
ステイビルの隣にはシュクルス、エルメトの隣にはアーリスが座っている。
昨夜エルメトには少し静かにしてほしいと伝えた途端、一言も喋らずただただ傍を付いて回るだけになった。
それはそれで鬱陶しいのだが、もうこれ以上は深追いしない様にしようとステイビルは決めた。
キャスメルにどうにかして欲しいと頼んだが、初めて見るステイビルの困り顔を楽しんでいるだけだった。
「もうすぐ、城内に入ります」
アーリスの言葉に窓の外に目をやるステイビルは、これからどのようなことが起こるのかと心がソワソワして落ち着かなかった。
何事もなく、馬車は城内に通される。
ステイビルは馬車を降り警備兵がその姿を見るが、誰も声を掛けることができない。
そのオーラは決して、ただの警備兵志願の男が出せるものではなかった。
王宮警備兵に見守られながら、ステイビルは歩を進めていく。
「……おい、行かないのか?」
不思議な光景にあっけにとられている三人に対して、ステイビルは声を掛けた。
その声にエルメトは我に返り、ステイビルの前に行き警備兵の申請窓口まで案内していく。
申請窓口でも、ステイビルに対して異議を唱える者はなく申請手続きもスムーズに承認された。
「流石はステイビル様。名乗らずとも、その風格までは消せませんね!」
エルメトは今までの申請窓口でされてきた嫌がらせが全くないことを見て嬉しくなり、自分のことの敵をステイビルが討ってくれたような錯覚に陥りやや興奮気味だった。
実際には全くそんなことはないのだが、ここで迂闊に返事をするとまた話が止まらなくなる可能性があるのため黙っておいた。
次に、ステイビルはニーナの部屋に案内してもらうようにお願いした。
浮かれる兄を余所に、アーリスは先頭を歩き案内した。
――コンコン
アーリスは扉をノックする。
だが、いつまで待っても返事がない。
――コンコン
もう一度ノックをする。
「……何か聞こえないか?」
アーリスとシュクルスは耳を澄ましすと、ドアの中から低いうめき声が聞こえてくる。
「え?」
「そういえば。部屋の中から……まさか!?」
ドアを開け、中に入っていく。
「ニーナ様ぁ!?」
アーリスは、床にうつぶせになって倒れているニーナの姿を見つけて駆け寄る。
ニーナの身体を抱き起しその目に入ったのは、胸元に見える黒いシミだった。
「こ、これは!?」
「前のコボルトの長に出てきていた黒いシミ!?」
「なんだそれは?私にもわかるように説明しろ」
アーリスとシュクルスは焦っているが、その意味が分かっていないステイビルは説明を求める。
「王子……申し訳ありませんが、一刻を争う状況です。エルメトさん、誰にも知られずにニーナ様をハルナさんのところまで連れて行きたいのですが」
「そんなことしなくとも……ハルナをここに呼んでくればいいのではないか?」
「それはできません。ボーキン様が助けてくれたのですが、ハルナさんたちは一度牢を抜け出しております。これは脱獄扱いとなっておりますので再度城内に入ることは危険なのです」
ステイビルは、詳しい事情は分からなかったが、味方のアーリスがそこまで言うならとそれ以上は言わないことにした。
ステイビルがこれ以上発言しないとわかり、エルメトもアーリスに言われた通り行動することにした。
「わ、分かった。それでは、ゴーフ様に頼んで馬車を一台用意してもらおう」
エルメトは、部屋の外に向かって走り出した。
ステイビルは、苦しむニーナの元へ寄る。
「で、これはどんな状態なのだ?」
馬車の用意ができる間、ステイビルは優しい口調で再度説明を求める。
「これは”闇”が浸食している状態だとハルナさんは仰っていました」
「ハルナが?」
アーリスとシュクルスは、今までのこの現象について知っていることを聞かせた。
「それで、ハルナなら精霊の力でこれを消すことができるというわけか……でも、その話し本人の前でしても問題ないのか?不安を煽っている気もするが」
「「――あ」」
アーリスの膝枕の上で、話しを聞いていたニーナが薄く目を開けて応える。
「だ……大丈……夫……です。は……ルナ……様……ならは……助けて……くださる……ので……しょう?」
「うむ、大丈夫だ。我々の精霊使いが、お前のことをきっと良くしてくれる」
ニーナはその言葉を聞き、口元だけ微笑んで再び目を閉じて苦痛に耐える。
アーリスは少しでも楽になるように、優しく頬を撫でる。
そして、エルメトが馬車の用意ができたと部屋に入り、裏の馬車置き場まで誘導する。
アーリスは、ニーナの身体を起こし移動するように促す。
シュクルスがニーナを背負うとした時……
「急ぐのだろう?私が連れて行った方が早い」
そう言って、ニーナを軽々と抱えて横抱きする。
「さ、急ぐぞ」
ステイビルたちは、エルメトの後を追って馬車が止めている場所まで向かった。
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