2-94 国宝級の品
一夜明け、ハルナたちは西の王都へ向かって出発する準備をしている。
昨夜もまた、おでんを出してもらった。
キャスメルとステイビルも、今まで食べたことのない味だったようでこの”庶民の味”をとても気に入ってくれていた。
エレーナは、お酒によく合うととても喜んでくれていた。
よほど美味しかったようで、ハルナにも何か向こうの堰合の料理を作って欲しいと頼まれたが、今はそういう時ではないとアルベルトに止められた。
マギーの数日前のショックも、この忙しさで嫌なことは忘れてしまっているようだった。
だが、ソフィーネ、カルディ、今回はメイヤとアーリスも、マギーの手伝いをしていてくれて助かっていた。
あと、ボーキンの配慮で西と東それぞれの警備兵も、少しずつではあるがお鍋のようなものに入れて外のテントに持ち帰らせていた。
そして、翌朝。
「それでは、我々は警備兵本部へ向かいます。ハルナ殿たちは、いったん我が家でお待ちください。アーリスを同伴させますので、何かあればご連絡を」
「いろいろとご手配頂き感謝致します、ボーキン様」
ルーシーがボーキンに対して、お礼を述べる。
「マギーさん、また絶対に来ますね!おでん、とっても美味しかったです!!」
エレーナは、この宿をすっかりと気にっていた。
マギーも、その好意に対して悪い気はしなかった。
「あぁ、待っているよ。今度は、もっと変わったおでんの”タネ”を用意しておくからね!」
ハルナたちはその言葉を聞きながら、手を振って宿を後にした。
宿の外には、二隊の馬車が用意されておりハルナたちはその一方に乗り込んだ。
そしてボーキンの出発の掛け声が掛かり、ゆっくりと馬車が動き出した。
「――カステオ様」
「何だ……どうしたフェルノール?」
「ビルメロが、やられましてございます」
「なんだと?ビルメロが……」
その一方を聞き、王子は背もたれから離れて前のめりの姿勢になる。
「作戦には成功しました……が、その後何者かによって殺害されました」
王子は深いため息をつき、片手で顔を覆う。
「ビルメロに渡していた剣は……どうした?」
「それは……相手に接収されてございます」
カステオはその返答に対して、席を立ち怒りをあらわにした。
「ば……バカな!?あれは、国宝級の品物だぞ!す……すぐに取り換えして参れ!!!」
「ははっ、いかなる手段を用いましても……必ずや」
フェルノールは胸に手を当てて、深々とお辞儀をして退室する。
その眼には、笑みの色を薄く浮かべながら。
大きめの馬車に、ハルナ、エレーナ、ルーシー、クリエと二人の王が乗っていた。
馬車の中では、あの剣の話しで盛り上がっていた。
「聞いた話だと、大精霊は指輪で大竜神は様々な加護を受けた道具が存在するらしいんです」
文献や、両親の効いた話を伝えるのはキャスメルだった。
ステイビルに言わせると、武術の方はステイビルが優れており、知識はキャスメルの方が優れているとのことだった。
特にあの旅以降には、キャスメルはものすごい速さで様々な知識を吸収しているとのことだった。
「ということは、その道具には各属性の加護が働いている可能性があるのかしらね」
ルーシーは、あの剣を弱々しいシュクルスが安易に振り回している姿を見てそう結論付けていた。
「それについてはまだまだ調べていく必要があるし、この件が終わったらローリエン様や、ハイレイン様にもお伺いしてみましょうよ」
もし、そのようなものが世界に出回っていれば、王選の旅も楽になる可能性があるのではとエレーナは考えていた。
「そういえば……私たちの王選もこれからなんですよねぇ」
クリエが、思い出したようにつぶやく。
「対象者がここに全員いるのだから、まだ始まりはしないよ」
ステイビルが、クリエに対して答えた。
特にステイビルとキャスメルは、王選において主要人物である。
その人物がそういっているのだから、東の国としても問題ないのだろう。
「ともかく、この西の国の問題をなんとかしないといけませんね」
ハルナが話しをまとめ、その場にいる全員も頷いていた。
今回は道中になにも起こらず無事に西の国の関所までたどり着き、そのまま馬車で通過できるとのことだった。
前回のような警備兵に囲まれたり、洞窟の牢獄に入れられずに済みそうだ。
ボーキンが、ハルナたちが乗る馬車の扉を開ける。
「それでは、ここから我々とは別々に行動します。ゴーフらを連れて行き、終わりましたら家に戻りますので」
「わかりました。ボーキンさん。また後程お会いしましょう」
エレーナがボーキンの言葉に対して返答する。
「はい、それでは後程。……アーリス頼んだぞ」
「はい、ボーキン様。お任せを」
ボーキンはハルナたちの馬車の御者の横に座っているアーリスに声を掛けた。
そのまま、ボーキンは扉を閉めて馬車を前に出すように指示をする。
ボーキンはハルナたちの馬車が無事に王都内へ入ったことを見届けて、拘束した隊の警備兵と解除した武装を関所の警備兵に渡した。
「……さて、これからどう動くべきか」
ボーキンはそうつぶやき、馬の手綱を握って再び本部に向けて走り出した。
ボーキンから武具を預かった兵は、それを警備兵の控室に持っていく。
「……フェルノール様、これがボーキン様から預かった武具です」
「ご苦労様です。さて、あの剣は……」
そう言って、フェルノールは袋の中を覗き込んだ。
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