2-57 コボルド討伐5





――グギャアアアア!


左から放たれた礫の逆の方向から、二匹のコボルドが草むらの影から飛び出してきた。

一匹は斧と盾を持ち、もう一匹は槍を構えて襲撃してきた。




「ハッ!」




後方を守っていたアルベルトが、ソルベティを狙う槍先の軌道を剣で弾いた。

警備兵がソルベティを助けるべく、コボルドに剣を振り下ろす。

しかし、コボルドはバックステップで剣の軌道から離れた。




ルーシーがもう一匹に向かって、火の玉を飛ばす。

コボルドは腕に付けた盾で、火の玉を防ぐ。

ソルベティは坂の上の高低差を利用し、コボルドの盾に向かって飛び蹴りを見舞った。


吹き飛ばされたコボルドは、丁度草むらの影から弓の弦を引くコボルドに命中し攻撃を免れた。







――ガサッ




一番最初の礫が飛んできた場所から、コボルドが茂みの中から立ち上がりスリングショットを引いて構えている。

狙いはルーシーに定められていた。

エレーナはコボルドの間に厚い水の壁を作った。


急に目の前の視界を遮られたコボルドは、驚いてスリングショットの引いた礫を放ってしまった。





バン!!





至近距離からの砲弾により、礫は水の壁を通過してしまった。

が、その意気は水を通過したことにより殺されており、ルーシーに届くことはなかった。



ホッとしたエレーナは気を取り直し、再び近いコボルドに向き直し溶けない氷の輪で足を縛った。




コボルドはバランスが保てなくなり、前のめりに倒れた。

じたばたするも、その氷を外すことは出来なかった。



その様子を見た他の三匹のコボルドは、危険を感じその場から逃げ出してしまった。






「……ふぅ、これで一安心かしらね?」





エレーナは額を腕でぬぐいながら、つぶやいた。

そして、第一部隊のメンバーは拘束したコボルドの元に集まる。






「何か聞き出せるといいんだが……」





警備兵が膝を付き、コボルドの様子を眺める。




「おい。お前たちの長はどこにいる?」





警備兵は、まだ何とか逃げ出そうともがいているコボルドに話しかけた。




『キー!キー!!』




こちらから話しかけた内容には応えず、ずっと同じ音の高さと強さで繰り返して叫んでいる。






「……話は、通じなさそうね」






ルーシーは、残念そうにつぶやく。







「おーい、大丈夫か!?戦闘のような音がしたが、何かあったのか?」






下からの第二部隊が、異変を感じて急いでやってきた。






「あー、大丈夫だ!コボルドも一匹捕まえた!」





「ふぅふぅ……エレーナ!大丈夫?」



ハルナも急ぎ足で来たため、息が切れていた。




「大丈夫、大丈夫。問題なしよ!」





そういって、ハルナの傍に駆け寄ろうとしたその時……






――!!





ソフィーネが腰に付けていた短剣を一つ抜いて、エレーナめがけて投げた。

その動作の速さに、エレーナも誰も対応できなかった。



エレーナの視界が、急にスローモーションになる。

怖がることを感じる間もなく、ナイフはエレーナに近寄る。


そして、ナイフはエレーナの耳元をかすめて通り過ぎた。





『ギャァーーーーー!』





エレーナの背後にいたコボルドの胸元にナイフが突き刺さる。






それを合図に、四方向からコボルドの群れがハルナ達を襲ってくる。





「えい!!」




突然、四方を石の壁がハルナたちのいる場所を囲んだ。



その向こうからは、突然獲物と遮られたコボルドたちが壁に向かってハンマーや斧などの武器で叩きつける音が鳴り響く。





「こ……これが、鉄壁の美少女……」




「エレーナ様?”美少女”ではなく、”少女”です。少女というお年でもないんですけどね?」



カルディが、エレーナの言葉をふざけながら修正した。





「もう、カルディさんったら!その呼ばれ方、好きじゃないんですから!?」




「クリエさん、すごい!!一瞬にして、こんな壁を造れるなんて!」






ハルナは興奮して、クリエの手を掴みながら褒めたたえた。





「そろそろ、反撃と参りましょうか?……準備はいいですか?」





アルベルトが、タイミングよく告げる。




「それでは、壁を消しますね。注意してくださいね!」






そういうとクリエは、アルベルトの合図で壁を消した。






ずっと壁に向かって抵抗していたコボルドたちは、その叩きつける対象がなくなり攻撃は空を切ってバランスを崩す。



まずアルベルトは、目の前にいたコボルドが持っていら斧の持ち手を剣で切り落とす。

そのまま、剣の柄で腹部を殴打しコボルドの意識を奪う。




最初の作戦通り、攻撃するよりも対話を目的とした行動をとった。

相手はお構いなしに攻撃をしてくるが、こちらの技量を見せつけることと、ダメージの高い攻撃方法を奪えば話し合いに応じる可能性に掛けた。







戦闘は時間が経過し、中心にハルナがいてその周りを囲むようにコボルドが襲っている形になる。

これは、もし囲まれてしまった場合にはこの陣形で対応するように決めていた。


こちらから囲ってしまうと、相手に恐怖感を与えてしまい、対話に応じてもらえない可能性がある。

囲ませることにより、優位であると思いこませて、コボルドたちの戦闘力を奪っていくことにした。



相手は不利になると逃げだそうとするため、精霊使いの力で束縛するか逃げられない状況を作るようにしていく。




その作戦は、思い通りに進んでいく。





ハルナ達を囲んでいた十六匹のコボルドの距離および中距離の戦闘能力はほぼ削がれた。


そうすると逃げ出そうとするコボルドも出てき始めた。

そこでルーシーやクリエはコボルドの退路をふさぎ、エレーナが束縛していくという役割で事が進んで行く。





こうして、一回目の戦闘は討伐隊の勝利となった。




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