2-53 コボルド討伐1
馬車の窓から眺めるディヴァイド山脈の頂点は、雲に隠れて見えない。
それ程高い山が、連なっているのだった。
山は所々切り立っており、直線ルートでは越えられない。
この状況は西側でも同様で、お互いが行き来しづらい状況となっている。
これで、防衛面では五分五分といった状況だった。
「にしても、ずっと山が続くのね……」
エレーナは、欠伸交じりに愚痴をこぼす。
エレーナ側の窓の景色は変化がなく、ひたすら山が続くのみだった。
「この先に小さな宿場町があります。そこで、一度休憩をいれますか」
何度か討伐に参加した兵が、エレーナのために提案してくれた。
並走している馬車からも、反対の声がなかったので一度そこで休憩をすることにした。
宿場町はお城を出て、馬車で四時間ほど進んだ場所にある。
ここは遠回りのルートを主に利用していた時に、山を出て城下町までちょうど半分の距離の場所にあった。
討伐の対象のルートは点前にあるため、ここからは二~三時間ほどかかるとのこと。
馬車はようやく休憩場所の宿場町に到着した。
四台分の馬車を停車場に停め、御者は走ってきた馬たちに水をやっていた。
山小屋のような建物が三軒ほど並んでいる。
一階は食堂兼、休憩室で二階が宿泊施設に担っていた。
中に入ると、西の王国からの帰り道の商人が数名が休憩室で休んでいた。
どうやら、以前から利用されてきた遠回りにルートを歩いてきたようだ。
その商人たちは、警備兵を見て話しかけた。
「警備隊の方々、ご苦労様でございます。この時期でも、あのルートをまだ使う方がいらっしゃるのですね。どちらの方ですか?」
休んでいた商人は、今回の団体が商人に雇われた警備兵と勘違いしていた。
「いや、今回は違うのだ。あのルートに出てくる魔物を討伐しに向かっている」
警備隊の一人が、話しかけられた商人に返事をする。
「へぇー!また討伐に行かれるのですね。”今回は”大丈夫でございますか?」
この商人は、以前の討伐隊を導入した結果を知っているようだった。
というよりも、今回の件に対して、商人たちの警備隊への評価は低かった。
町の中では権威があり、盗賊や半端者などの対人物にはそれなりに成果を上げてきたが、魔物の問題に対しては多くの商人たちは警備隊に期待をしなくなっていた。
その商人からの心配に対して、警備兵は返す。
「安心するがいい、今回は王宮精霊使いから協力を得ることが出来た。今回で魔物を一掃して見せよう!」
「今回は精霊使い様も!?」
商人は自分の耳を疑った。
自分の持つ情報では、王宮精霊使いの中では実戦経験を持つ者は少ない。
特に今回のような魔物の討伐となると、熟練でなければ命に関わる。
(そんな方が、王宮精霊使いの中にいたとは……)
その商人は自身を情報通であると自負していたが、まだまだであることを反省した。
「とにかく、お気を付けくださいませ。討伐の成功をお祈りしております。大精霊様のご加護がありますように……」
警備兵は満足そうに休憩室の奥へ向かい、飲み物を注文した。
そして、先ほどの商人は荷物をまとめて出発しようとしていた。
が、急に話しかけられて止められてしまった。
「失礼ですが、あなたはあのルートを通ったことがおありで?」
「え?あ、はい。ございますが……」
カルディは、商人に話しかけた。
「その時は、魔物に襲われなかったのですか?」
「あのルートができた頃、通っておりました。その時は今ほど魔物の動きは活発ではありませんでしたが、一度襲われたことがございます」
「その時はどんな状況でしたか?」
「その時は西からの帰り道でした。取引が終わった後なので、そんなに荷物もない状態でした。ちょうど山に入って真ん中あたりを通り過ぎた頃だと思います。そこでコボルドに襲われました」
「皆さんは無事でしたか?」
「はい。その時は、大した荷物もなかったですし空になった入れ物を捨てて逃げるように指示しましたので、皆無事に逃げ切ることが出来ました」
「その時何か気付いたこととか、変わったことなどありませんでしたか?」
「いえ、特には……あ、一つあるとすれば、コボルドの一匹は頭に骨をかぶっているものが一番後ろにいたのを覚えています」
「骨……ですか?かぶっていたのは一匹だけだったんですね?」
「そうですね。武器などは、手製の斧や奪った短剣などがありました。その中で、骨をかぶっていたのは一匹だけでしたな。いま思うと不思議ですね」
「有難うございました。引き留めてしまって申し訳ありませんでした。道中ご無事で」
カルディは、商人に礼を言って休憩場を出るまで見送った。
「それでは、そろそろ我々も参りましょう」
ドイルが、出発の合図を出す。
カルディは馬車の中で商人に聞いた話しを、ルーシーたちに伝える。
「その個体が、ボス的な存在なのかしら……」
「その可能性はありますが、実際にその行動を見てみないと何とも判断ができないですね」
アリルビートがそう告げる。
「なんだか、嫌な予感がしているのは私だけでしょうか……」
クリエが、ボソッとつぶやく。
「ちょっと、不吉なこと言わないでくださいよ……」
エレーナがすぐに、言い返した。
そこから四人の精霊使いの胸の中に、何かモヤモヤとしたものがつかえる。
そこから一時間程進んだところで、馬車の速度は落ちて止まる。
ハルナ達は、問題となっているルートの入り口に到着した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます